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もうLOVEっ! ハニー!

第13章 諸刃の剣で断ち切る思い出


 倉庫に着いたのは八時半頃だった。
 サブキーで鍵を開けようとすると、中から隆人の声が響いた。
「何人かで来てるなら他メンバは戻れ!」
 汐里が扉を開くと、近くまで這って移動したのか汗だくのままに叫ぶ。
「ガク! こばる! 今すぐ寮に戻れ。あいつらフルスイングで人の頭殴れるタイプだ。手毬、警察に電話」
「ホンマか……」
 青ざめた岳斗がこばるの襟を引っ張って回れ右させると、全力で二人が駆け出した。
 手毬はあたふたと携帯を取り出し、慣れない説明で通報する。
 汐里がポケットからハサミを取りだし、手際よくバンドを切ると、大人二人も足早に寮に向かう。
「何人いたんだ」
「殴ってきたのは二人かな。総勢六人だと思う。縛られた後に、見間違いじゃなきゃ、何か飲んでた 」
 曖昧な記憶を呼び覚まそうと頭を荒く掻く。
「そりゃーあれか。カラフルなラムネか」
 静かに頷くと汐里の目が暗く沈んだ。
「可哀想になあ。後先考えずにんなもんに手を出しちまう環境に置かれて。暫く頭冷やしに塀の中で治療してもらわんとな」
 学園内で売人がいるという噂が立ったのは、いつの頃からか。
 実際にそうしたものを校内で見かけたことは無い。
 予防のために付けておいた知識が今回役に立つとは皮肉だ。
「もっと早く村山薫をカウンセリングすべきだった……管理人失格だ」
「気に病むな。まずは誰も怪我させずに解決だろ」

 ガツン、と金属音が響く。
 金属バットを構えたつばるは、相手の手に握られた凶器に首の毛が逆立つのを感じた。
「包丁……?」
 柄の部分を壁に打ち付け鳴らされた音は、廊下にいた男子全員を警戒態勢に入らせる。
「あ、つばるじゃん。何持ってんのウケる」
 博也の声に額から血が出そうなほど眉を潜める。
「お前のは全然面白くねえんだけど」
 正面玄関から入ってきたのか。
 村山がロック解除したのだろう。
 六人の影を一人ずつ確認する。
 博也、舞花、樹生、宏正、村山、そして柚だ。
 廊下の角に隠れた亜季が、警察に電話しているのが聞こえる。
 一番近い交番から車で十分強。
 それまで、時間を、稼がないと。
「樹生と宏正は丸腰でお前だけ武器持ってんの、クソだせぇな」
 なんで煽るんだ、という尚哉の視線を無視してバットを下ろして見せる。
「ねえねえ、バカんなどこ」
 舞花の言葉はきっと保健室に聞こえてる。

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