もうLOVEっ! ハニー!
第13章 諸刃の剣で断ち切る思い出
「かーんな。これが終わったらさ、思いっきり天体観測楽しむんだよ。マイス食べて、わかりもしない星座探して、流れ星降らないかなあなんて、呑気になるんだよ。人生で真面目に空見る機会なんて十回もないんだから」
確かにそうかもしれない。
まだ夜のことを期待できる精神では無いけれど、すとんと胸の底に降りてくる言葉。
「その貴重な機会をかんなと過ごせてボクは幸せ」
にまっと。
泣きそうな、優しい笑みで。
保健室に着くと窓の施錠を確認し、手分けして棚を動かした。窓を塞ぐ形にしてから、ベッドをソファ替わりに各々座る。
「あー、元の位置の写真取っておけばよかった。元に戻すの多分無理だわ私」
「大丈夫ですわ、なる先生。そこに頭のいい子豚ちゃんがいますもの」
「雌豚から格下げされてないかにゃ!」
平穏を装いつつも鳴海の顔には余裕がなかった。
寮が出来て以来、色んなトラブルはあっただろうが、当人にこれほど被害が訪れることはなかったのでは無いだろうか。
爪を噛みながら、時計を何度も見上げる姿にズキリと胸が痛んだ。
私が来なければ。
私さえ居なければ。
つばる相手にここまで嫌がらせはしないだろう。
やっぱり私だ。
余分な存在。
逃げた先でも災難を起こすんだ。
「あっつ!」
ぶにり、と頬に熱いおにぎりを当てられて思考が吹っ飛ぶ。
「朝から何も食べてないでしょ。気にしたって今すぐ解決しないことは一旦忘れなさい、かんちゃん」
「ありがとうございます」
隣に座った茜が眠そうに欠伸する。
「ここってさ、みんな素行悪い割には早起きよね」
同意も否定もしかねる難しい発言です。
「ちなみに今日のことなんも聞いてないんだけどさ、別に話さなくていいからね。部外者の感想なんてさ、少ない方がいいんだよ」
ポケットからアタリメの袋を取り出して、バリンっと開ける。
この人数のいる部屋でそのチョイスは臭い的にはどうなのかと思いつつ、口に運ぶ手がぎこちないのに気づいてしまう。
「いやあ、ビビるけどね。住んでる寮の管理人が誰かもわからんやつに襲われたかもなんてさ。震えるわ」
廊下から声が上がったのは、その言葉の最後と同時だった。
「迎えに来たよー!」
忌まわしい声が、壁越しに脳を貫いた。
勝見博也。
そして周りの黄色い声。
「出ておいで、バカんな」
ああ、呪いだ。