もうLOVEっ! ハニー!
第13章 諸刃の剣で断ち切る思い出
あと少しで玄関。
岳斗はこばるを置いて一足先に踏み入った。
まず見えたのは女の背中が二つ。
ひとつは村山だと認識し、その奥のヒョロい男二人、さらに一番奥がつばると対峙してるリーダー格だ。
足音を消して近づきつつ、息が上がった身体が発熱しているのを感じる。
「俺とかんな迎えに来たなら、素直に校門で待ってりゃ良かったのに。なに犯罪重ねてんだよ」
つばると一瞬目が合った。
安堵した光が過ぎるのを、相手に悟らせないように顔を強ばらせている。
ふたつ下の男が無茶な役回りを。
どいつから羽交い締めにするか計算する。
「なんつうの。卒業してからさ、無敵。気づいちゃったの。つばる、お前より、上だって。ヤリチンなだけで人の上に立てるヤツじゃなかったって。パーッと頭が冴え渡ってんだ」
声色でわかる。
正気じゃない。
女たちも落ち着きなく体を揺らしている。
ヤバいな。
遅れて来たこばるを制止してアイコンタクトする。
隆人と汐里を待つか。
全員でかかるか。
どのタイミングで。
喋れるのはつばるだけ。
合図出してくれるか。
「こんな大事にしなけりゃ捕まらずに済んだのにな。余計な手間かけた警察に申し訳ねえわ」
勝見が不意に動く。
舞花を押しのけて一気に近づいた。
「知ってるか、つばる? 傷害罪くらいじゃ捕まってもすぐ出てこれんだぜ。殺さない程度になら好きなことし放題なのわかる?」
「語尾が揺らいでんだよ。ヤク中」
サイレンの音が遠くに聞こえる。
「いいから早くバカんな出せよ。画像の男の居場所教えてやるよ。アイツ金になんだよ」
ヘラヘラとだらしない口。
こいつと中学の時なにを話してたんだ。
「舞花も柚も使えねえからさ。嫌がるし。なんでも言うこと聞く女が必要なの、わかる?」
包丁さえ持ってなりゃ、何発か殴れる隙はあったのに、奥歯を噛み締めて耐える。
「だったら手遅れだな。あいつ何にも聞かねえぜ。変わったんだよ。お前も猿から人間になれよ」
激昂した勝見が突進する。
両手で構えた包丁を止めるのも、躱すのも無理だ。
それなら、カウンターしかない。
半身を逸らして勝見の顔を狙う。
後ろで悲鳴が上がる。
いや、リーチ差がある。
じゃあ、こっちだ。
つばるは上体を逸らしながら急所に向かって右足を蹴り上げた。
凶器は、肩を這うように滑った。