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もうLOVEっ! ハニー!

第13章 諸刃の剣で断ち切る思い出


「どれが合図やねん!」
 岳斗が怒号を吐きながら柚を片手で突き飛ばし、樹生の背中に容赦ない蹴りを入れる。
 こばるは宏正を押さえ込み、陸は舞花を壁に押付け、数秒で決着がついた。
 急所を蹴られた勝見が体を折り曲げ苦しむ間に、利き手をバットで殴って包丁を落とさせる。
 扉が開いて鳴海が刺股を構えて飛び出した。
 勝見は床に押さえつけられ、虫のように激しく抵抗した。
 両足を尚哉と奈巳が封じ、肩を踏みつけるように岳斗が固定する。
 連携の差が勝因か。
 冷静に振り返る余裕はなかった。

 鳴海の後に続いて廊下を確認する。
 かつてのクラスメイトが次々押さえつけられ、喚き散らしている。
「あたし、関係ない! 関係ないから!」
「ヒロくん! 何してんの、早く助けてよっ」
「どうなってもいいんだな! 今頃仲間があの男の始末してるぞ!」
「してないよ」
 廊下の奥から息を切らして隆人と汐里が現れる。
「地の利も工夫もなく飛び込んでくるんじゃないよ。子どもだからって許されることじゃない」
 仲間というのはハッタリでしょう。
 明らかに動揺した勝見の表情を大人たちは鋭く見ている。
 サイレンはもう間近だった。
「お金欲しさに彼女やクラスメイトを売春させるなんて、最後の手段にも選んじゃいけない」
「とても説教を聞く相手じゃないですよ」
 つばるの呆れた声に隆人も知ってると言わんばかりに頷いた。
 やっと周りを見たのか、舞花がこちらを見て叫ぶ。
「いた! やっぱりいた! 生きる価値ないバカんなが抵抗してんじゃねえよ」
「聞かなくていい」
 つばるが言葉を遮るが、警察に連行される前に最後の会話をする必要があると思った。
 舞花と柚に近づく。
 柚はこの後を想像しているのか、ぶるぶると震えて目の焦点があっていない。
「あ、あ、あ、あんたは言わないよね。今更、中学の頃の話なんか、け、警察に、言ったりしないよね。そんなこと、したら、許さない、から」
「すみません。嘘はつかずに証言します」
 柚は絶望したように口をつぐむ。
「きっかけはどうあれ、私は三年間あなた方に復讐をすることはありませんでしたし、今後もする気はありません。ただ今日のことは法の元で裁かれてください 」
「はあ!? 存在自体が不愉快なのに自分は悪くないって……都合が……」
 威勢がそがれたのは、警官が見えたからでしょう。

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