もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
「かんなを追い討ちするヤツがもしいたら、ボクは遠慮なくフルスイングするから」
枕をバットのように振り、美弥は玄関に向かう。
去り際にビシッとこばるに指をさす。
「冷静にね、こばりん! やり方によっちゃ、黙ってないからね」
そう追い込むなや、という岳斗の言葉が届く前に美弥は足音を立てながら出て行った。
「んじゃ、口煩い先輩は退散するわ。ほなね」
追いかけるように岳斗も扉に消える。
残された静寂の中で、陸の発言を求める視線にこばるが声を絞り出す。
「大丈夫……でもアイツ、包丁で刺されかけたんだから、心配ぐらいはさせてくれよ」
全員忘れていたとばかりに言葉を失った。
同時刻、管理人室に呼ばれた三人は並んで隆人の前に立っていた。
「ごめん、話しづらいから椅子にかけようか。つばるはそっち、かんなはこっち、薫はその椅子に」
隆人さんの隣。
些か警戒しつつも、今はこの試練を前にして他に怖いものはないなと顎を引く。
迎えに来てくれた汐里の車で帰ってきた時から、一度も言葉を発していない薫。
包帯を付け替え、ジャージ姿のつばる。
「まず、本件について理事には週明けに報告をすることになった。学園にパトカーが入ってるからね。どうしても、大事になるのは許して欲しい」
そりゃそうですよね。
今回の影響がどれだけ広がるか、まだ全容は見えないものの三人とも苦い顔で噛み締める。
「まずは村山薫、君から今後についての希望を聞かせてくれるかな。入寮資料を見たところ、緊急連絡先に指定されてる叔母さんの家には頼れるよね」
「頼れません。トラブル起こして来たなんて知られたら、敷居を跨がせてくれない人です」
数時間ぶりのその声は乾ききって、猫の気配すらない力のなさだった。
どこかでまだ、ふてぶてしく居座るのではと思っていました。
でも、今の彼女に余裕は見えません。
「あとがないと分かっていてここに来たのなら、どうして、僕を襲わせるような計画に加担したの」
結構痛かったんだけど、と頭を摩る。
責めるだけでない優しさがそこにあった。
「ごめんなさい……私はただ、友達がつばる君とかんなさんに会いたいって聞いて……いえ、隆人さんの件までは知らされてませんでしたが、彼らがかんなさんをいじめていたのは知ってました」
話してる途中で、隆人も廊下での本音を聞いていたと気づいたようだ。