もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
「さて、つばる」
次は君の番だよ、と目が語り掛ける。
「俺もそこに移籍ですよね。巻き込んでしまってすみません。短い間ですが、世話になりました」
そう言って立ち上がろうとしたつばるの手を引いて、再度座らせると隆人は微笑んだ。
「そう結論を急がないで欲しい。過去にあったことは改めて向き合うとして、今日のつばるは被害者だよ。そしてほかの寮生を傷つけまいと立ち向かった勇気ある人だ。それはたしかに褒められるべきこと。怪我は大丈夫?」
意表をつかれたようにつばるは目を丸くする。
それからしゅんと目線を落とした。
「大丈夫です……隆人さんこそ、体調悪いのにすみません。あと俺は、決して許されないことをしたことは自覚してます」
「そうだね。ちゃんと謝ったことはあるのかな」
「え」
唾をごくりと飲む横顔は、もう何のことだかわかっているようでした。
私はその後の言葉を聞きたいようで、聞きたくありませんでした。
だって、迫られるから。
「かんなに謝ったことはあるのかな」
謝られたら、許さなければいけない。
そんなの……
そんなのずるい。
私がつばると話していられるのは、過去を決して許さない前提の元だから。
そこに大人が介入してコトを整理されてしまったら、許さなければいけない。
はっは、と呼吸が浅くなるのを感じる。
つばるがゆっくりとこちらを向いた。
私の目をしかと見る。
「えと……」
珍しく歯切れ悪いじゃないですか。
「その……隆人さん」
急いで隆人を振り返ったつばるは、思い詰めた顔で続けた。
「この謝罪は許してもらうためのものじゃないです。その前提の元で、聞いてくれると助かります」
なんですか。
なんなんですかそれ。
つばるの両の眼がもう一度こちらを向く。
ああ、あの目です。
ハンカチの時の。
似合わない瞳。
いやです。
聞きたくない。
「かんな、本当に悪かった。中学三年間、数え切れないくらい、酷いことをごめん」
心臓がバクンと音を立てた気がした。
それは真っ直ぐな、言葉だった。
三年間の苦痛を前にしたら紙切れだけれど。
少しだけ心の奥底に届く言葉。
答えられない私に隆人が助け舟を出す。
「うん。確かに僕は聞いたよ。あとは、かんなに委ねること。それから君の今後についてだけど」
隆人は思い出したようにファイルをしまいに行く。