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もうLOVEっ! ハニー!

第14章 思惑シャッフル


 部屋に戻る途中、荷物を運ぶ早乙女兄弟、岳斗にばったり遭遇した。
「かんなちゃん、本当にごめんね」
 こばるは弟のことを謝罪する。
 つばるもスっと頭を下げた。
「良いんです。こんな夜中に移動大変ですよね……ガク先輩も手伝いですか」
 トランクケースを軽々運ぶ岳斗がにこりと答える。
「それもあんねんけど、野郎同士話すことが山積みでな。リクエストあったら何発でもしばいとくで」
「結構です……」
 思い詰めた背中と、見守るふたつの背中が階段を上っていく。
 そのまま自室に帰る気もしなくて、美弥の部屋の前に止まったが、結局寝慣れたベッドに身を預けた。
 シャワーも、歯磨きもサボろう。
 明日は日曜日。
 ああ、そういえば天体観測。
 中止になっちゃいましたね。
 いいやもう。
 星空の夢でも見て寝ましょう。
 爽やかな朝を待ちましょう。
 意識がベッドのそこをつきぬけて落ちていく寸前に思い出したのは、担当官の言葉。
 薬物反応が検出されなかったのは二人。
 村山薫と、櫻井柚。
 願わくば、どうか。
 二度と会うことがありませんように。

 司の部屋の向かいに荷物を運び入れ、生活臭のない空気を吸いながら三人は各々好きな場所にくつろいだ。
 こばるは先の会議を思い返していたが、岳斗がその件を話すつもりがないのもわかっていた。
「今年の一年は強烈やな」
「すみません。本当」
「いやいや。つばるは知らんやろけどな、隆人隠されとったん第四倉庫。俺とこばるで探しに行ってな、隆人がこう、両手両足縛られて転がっとったんは衝撃やったな」
「んはっ、先輩それ今言うんすか」
「今以外わろて話せんやろ。もったいない」
 場を和ませたいのか本当に面白いと思ってるのか、いずれにせよ岳斗が生み出す空気は早乙女兄弟の緊張を解く熱を帯びていた。
「岳斗先輩、めちゃくちゃ喧嘩慣れしてますよね」
 つばるのふと出た質問に破顔する。
「はははっ、せやで。お前もよう避けたな」
「切られましたよ」
「いやー、あれで済んだんは奇跡。な、こばる」
「寿命縮んだっすよ……」
「ほんでなるの刺股! 防災訓練やったな」
「申し訳ねえ……」
「笑えや」
 女医に何をさせてしまったんだと頭を抱えるつばるを、景気よく小突く。
「あいつら、何吸っとったやろ」
 急に岳斗が声を落としたので、三人とも重苦しく思案する。

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