もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
目的の鎌倉駅に着き、人混みを避けながら西口を出て、御成通りを進む。
日差しが白く照り返し、雑貨屋の軒先がキラキラと輝いている。
「久々やなあ……かんなはいつぶりなん」
「えっと、初ですかね」
「ホンマに?」
ジーンズ雑貨や、画廊、茶屋を新鮮な気持ちで眺めながらゆったりと歩く。
ヒールの低いサンダルにしてきてよかった。
いや、スニーカーのが良かったかもしれない。
駅に降りる前に見たマップアプリからは、長谷寺までなかなかの距離だったから。
不安を察したのか、岳斗が親指でくいくいと小ぶりなカフェに誘う。
「何軒寄ってもええよ。休憩しながら行こ。ペットボトルなんか買わんと、喉乾いたら休憩な」
「いくら使うつもりですか」
「春休みに住み込みバイトしてん。金余っとるんよ。奢りもせん男に見える?」
急いで否定すると、冗談やと笑う。
過ぎ行く視線を感じて周りに意識を向けてみると、雑誌で見るような可愛らしいコーデの女性たちが沢山歩いている。
体格もモデルのように美しい人が多く、なんだか急に自分が小さく粗末な存在に思えてくる。
変じゃないですよね。
襟元レースのオーバーサイズのカットソー。
ベージュのフレアスカートにボルドーのポーチ。
髪はハーフアップでまとめて、パールの髪飾り。
変じゃないです。
大丈夫です。
よそ行きレベルはクリアしてます。
「なーにしてん」
古着屋の小窓に映る自分を確認していると、岳斗が肩に顎を乗せて囁いた。
仰け反りそうな驚きを超えて固まってしまう。
そうっと隣を向くと鼻が触れ合いそうになり、急いで一歩下がる。
耳の上がどくどくいってる。
間近で見た岳斗の眼が強烈に焼き付いている。
普段は見えない奥二重に、下向きのまつ毛が綺麗に並んで、化粧でもしてるのかと思うほど綺麗な色白で。
そうだ、初めて見た時のあの、神々しさ。
つい慣れてしまっていたけれど、道行く視線は全部この人に注がれてたんです。
長身に無駄のないスタイル、こなれたフォッション、シルバーピアスが連なる耳。
どこの芸能人かとみんな噂してたんです。
「ちょ、どしたん。怖がっとるん?」
なんて人の隣を歩いていたんでしょう。
こんな、こんな、自分が。
好意に応える誠実さもなく、返事を先延ばしにして卑怯にデートについてきて。
なんですかこの女は。