もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
「ごめんなさい……」
不意に出た言葉に涙まで引きずり出される。
流石に慌てた岳斗が小道に連れ込む。
「なに? え、なに? そんなビックリしたん。ごめんて。嫌やってんな、触られんの」
「ちがう……ちがうんです」
ボロボロと出てくる雫を手の甲で拭っても拭っても止まりません。
なんて都合のいい方に逃げてるんだろう。
それは心地いいに決まってる。
優しくて、格好良くて、隣に歩くことで優越感を与えてくれる人に甘えてしまっている。
一ヶ月近く返事もせずに、向き合おうと訪ねることもしなかったのに。
この人はさらりと連れ出して、優しくエスコートしてくれているのに。
手をそっと外されて、頬をハンカチで拭われる。
「そないに思い詰められるんやったら、無かったことにしてええよ」
え。
時が止まったように喧騒が消える。
岳斗の真剣な顔だけが視界を占める。
「過去も知らんと、急に言われて困ったやろ。一目惚れ言うてもピンと来んよな。色々あったやろし、男性恐怖症とか、断れんで抱えてたんかなて。でも安心し。断ったからて優しいセンパイポジは誰にも譲らんから。せやから……」
ふふ、と微笑む。
「安心してな」
ああ、なんて夏の日差しが似合う人なんでしょう。
きゅ、と握られた手を頼りに、通りに戻る。
決して足が痛まぬように小さな私に合わせた歩幅。
その優しさにまた涙があふれる。
「目的地変えよか」
由比ヶ浜大通りに差し掛かり、右でなく左に向かった。
「海行こ」
波音が聞こえてきてからその雄大な青を見るのに時間はかかりませんでした。
由比ヶ浜は眩い陽光を堂々と受けて、観光客を温かく受け入れます。
横断歩道を渡って砂浜を前に立ち止まる。
「波打ち際まで行ってもええけど、座って休もか」
手を引かれてベンチに身を預ける。
「休憩せんで来てもうたから、疲れたやろ」
いつ買ったのか、ポケットから紙パックのりんごジュースをふたつ出して、片方を手渡す。
甘酸っぱさが喉に優しく沁み渡る。
「美味しいです」
「ほんまは食べさせたいもんいっぱいあったんやけどな。かき氷に焼きたてパンに、アホみたいなパフェ」
「サイズがですか」
「形がや。ガラスドームみたいなん」
手振りで表現してから、笑いが漏れる。
波音と車の音がぶつかる。
風はそれほど強くなく、潮風が気持ちいい。