もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
ライブ会場に着き、開演まで二時間あるのを確認してから物販に並ぶ。
照りつける陽光と人の密集から生まれる熱に、持参したペットボトルが早々に空になる。
Tシャツにリストバンド、会場限定アルバムは鉄則として、バンドロゴのバッグチャーム、ロゴ入りメガネケースに心が揺れる。
どちらも買うには財布が許さない。
やはりここはメガネケースか。
「尚哉、先に向こうのベンチにいる。自販機でなんか飲みたいのある?」
「スポドリならなんでもいい」
予想セトリを詰め込んだプレイヤーを取り出しイヤホンをつける。
今後のグッズリリースを確認しようと携帯を取りだして、電源を入れる。
ー今年も帰ってこないのかー
通知画面に貼り付けられたメッセージに、ズキンと頭が痛んだ。
急いでスライドして通知を消す。
家族。
交流。
トラブル。
因縁。
そうしたものから逃げるために華海都寮に逃げた。
あの新入生のように家族に知らされる恐怖だけは避けて卒業したい。
「俺はあの人みたいにはならない。俺はあの人みたいにはならない」
気づくと呪文のように唱えており、周りからの好奇な視線に急いで口を塞いで平静を装う。
今日はライブだぞ。
このために生きてるんだから。
変なことは考えるな。
あの人はもう人生に関わることは無い。
葬式くらいは出てやるかもしれないけど、俺の人生に口出しはさせない。
子どもを不幸にする親など反面教師でもごめんだ。
「どちらの商品になさいますか」
やっと来た順番に、ついバッグチャームとメガネケース両方をオーダーしていた。
開場時間になり、アリーナの指定ブロックに向かう波に乗る。
「尚哉はさ、音楽の道に行かないの」
まだあと一時間待たなければならないので、マリケンが新たな話題を投げる。
携帯の電源を切ってから思案する。
「んー。マリケンみたいに作曲とかできるならともかく、歌も楽器もやれないしな」
「奈己とか蘭先輩に聞いてみたらいいのに」
「ピアノにバイオリンはハードル高ぇし。あの二人に教わんのはくすぐったすぎ。マリケンこそ進路決まってんの」
「やっぱ調理専門かなあ」
「ブレないねえ」
「先輩たちはさ、どうするんだろうね」
そこを話すための前フリだったのかと察する。
個性派ぞろいの三年生。
中でも気になるのは岳斗と美弥。
「聞いてみるか今度」