もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
「どこ行ってきたんだよ」
岳斗がカウンターに座るのを眺める。
「んー。テストのご褒美、かなあ」
「なになに、なんの話?」
山盛りのチャーハンを大皿に綺麗に盛り付けて、小皿とレンゲを器用に片手で持って司がやってくる。
鼻をくすぐる油のいい香りに空腹を思い出す。
エプロンを脱いだ司が岳斗の奥に座り、三人並んだ。
「いただきます」
声を揃えて手を合わせてから、勢いよくレンゲを運ぶ。
手毬ほどではないが、三人とも食は太い方だ。
特に岳斗の大食いはコロッケの時に群を抜いていたが、普段は少食でも生きていけるらしい。
「それで、どこ行ってたんだ」
清龍が質問を繰り返すと、ニヤけが止まらないような顔で答えた。
「鎌倉デート」
「まじで! 羨ましい~」
レンゲを咥えて眉をひそめる司の声は耳に届かなかった。
だって、対象なんて……
一人しかいない……
「松園、かんな?」
「なんでフルネームなん。当たり」
「まじで!」
無邪気な反応する司が根掘り葉掘り聞きたいという顔で見るが、岳斗はチャーハンを食べ進める。
清龍は首の後ろがちりちりと痛んだ。
頭痛かもしれない。
告白したのは聞いていた。
気が気じゃなかった。
一年生の騒動以降動きがなかったから、進展も無いものだと思っていた。
まさか夏休みに入るのを待っていたとは。
「付き合うの?」
司が代弁するように尋ねた。
「んー。まだわからん」
「なんでだ」
「なんでって、そりゃ、清。双方の合意がないと、進まんやろ。まだ待っとるの」
双方の合意。
合意なき暴力を振るったことを思い出す。
中学二年のあの日を。
一気に食欲が消えていく。
水を飲み干し、またコップいっぱいに注ぐ。
「そうかあ。ガクも一年以来じゃない? 春到来」
司の言葉の緩さに追求ができない。
「もうそんななるか」
入学時から背の高さと肌の白さ、こなれた髪型にピアス、関西弁とくれば目立たないわけがなかった。
振られた女子の数は二桁を超えただろう。
隣で見ていて引いた。
「でも、あの子……トラウマあるんじゃないのか」
余計なこととは分かりつつも口走ってしまった。
その瞬間、岳斗の目から笑みが消えた。
「中学のことか。外野が気にすることちゃうやろ」
ちがう。
小学の頃だ。
清龍はそれ以上言えなかった。