もうLOVEっ! ハニー!
第14章 思惑シャッフル
清龍と司はともに奨学金特待生を目指して同じ大学の試験に備えていた。
高卒ではなく大学で学びたい分野があるふたりは、専門は違えど勉学への意向は近しい同士。
夏休みに入ってからは、図書室の学習スペースでひたすらに時間を測りながら赤本を解くことにした。
初日からフル試験を行ったので、空腹と疲労に表情に覇気なく寮に向かう。
「去年の問題から遡るのと、十年前から去年に向かってくるのどっちが効率いいんだろうなあ」
司がスキンヘッドを軽く掻きながら零す。
「傾向の対策って言うなら過去からがいいんじゃないか。どういう経緯で流行が出来たのか調べやすそうだし」
「でも古い問題ってなんかやる気出ないんだよね」
「仕方ないだろ」
ボヤきながら靴を脱ぐ。
汐里が不在なので司に何か作ってもらおうと、二人で食堂に向かう。
これから二週間はこの日々になる。
八時に図書室、十七時に帰宅。
後悔のないように。
「師匠が冷蔵庫パンパンにしてくれたからさ、割と何でも作れるよ。中華かなあ、オムライスもいいな」
「チャーハン食べたいだけだろ、司」
厨房にルンルンと入っていった背中を見て微笑みつつ、カウンターにうなだれる。
疲れを追い出すように溜息を吐く。
すぐに油のいい匂いと野菜を刻む音がする。
トントン……
ーご飯できるからテレビ消しなさいー
ーお皿持ってきてくれる?ー
ー今日テストどうだった?ー
平和だった頃の家族の会話が蘇る。
あのまま過ぎていたら、ここに来ることは無かっただろう。
なぜ母はあの平和を維持せずに、外に居場所を求めてしまったんだろう。
なぜ父はそれに気づかず手遅れになるまで放っておいたんだろう。
いつでも巻き込まれるのは子どもだ。
めいに相談していた頃が懐かしい。
家族の愚痴を言い合える関係だった。
かんなの悪口も沢山聞いた。
実際に会うまでどれほど性悪な顔をしているのかと予想していたくらいだ。
「トマトと塩コショウどっちの気分ー?」
厨房から声だけが届く。
「キツめの塩コショウ」
「なんてー?」
声が小さかったようで聞き返される。
息を吸って大声を出そうとするが、現れた岳斗が被せ気味に叫んだ。
「塩コショウキツめやってー! 一人前追加してな」
「夏休みは勉強サボる気?」
「なんや、清。疲れきっとんな」
そういうお前は輝いてるな。