もうLOVEっ! ハニー!
第15章 何も叶えぬ流星群
はらりと落ちかけたそれを何とか受け止めたが、美弥の視線は鎖骨に向かった。
そっと指先がそこに触れる。
「へえー。随分えっちな内出血が増えてるね」
いつもと同じ声なのに、纏った空気が脱衣所を急速に冷やしていく。
何とかタオルをずり上げて着替えの元まで行こうとするも、美弥は腕を掴んで離さない。
その力は、身体が同じ性別というのを忘れさせてしまうほど。
「ねえ、かんな。どうしてボクには何の一言もないのかにゃ。何も知らないとでも思ってる?」
どうして今。
どうして今なのか。
いくらでも時間はあったのに。
向き合う時間はあったのに。
こんなタイミングじゃなくたって。
グイッと引き寄せられて、目の前に美弥の凍った顔と向き合う。
「ガクなら彼氏として最高だよね。背も高いし声も低いし、ユーモアもあるし、経験もあるし、エッチの腕だってボクが及ぶはずもない」
ギリリ、と指先に爪が立つ。
「でも横からかっさらわれるなんて気持ちが追いつかないよ、かんな。アリスの件で心乱されてる隙にどうして無かったことにされちゃうの」
「無かったことになんて……」
「一言くらいは欲しかった。ボクも馬鹿じゃないんだ、理不尽なことを言ってるのはわかってるよ。幸せを望んでるよ。でも、でも……かんなはチャイムを押してくれなかった。寂しかったよ」
手が離れて、美弥が力無く自身を抱き締める。
あまりに切ない姿に心臓がズクンと傷んだ。
「だから、これは、ボクの最後のワガママ」
言い聞かせるように呟いてから、顔を上げてにこりと微笑む。
「チューして、かんな」
脱衣所の時計の秒針の音が響く。
今しがたの言葉が世界を二人だけにしてしまう。
両手を広げた美弥に、つま先を向けて、そっと足を踏み出す。
だってそれはあまりに切ないエンドロール。
自ら幕引きを演出するなんて。
「かんなからしてくれたこと、ないでしょ」
えへへ、と可笑しそうに。
どこまでも強がりなこの人は。
どこまでも卑怯な私に区切りの場をくれる。
涙が込み上げても流しちゃいけない気がした。
向き合った二人が、かつてこの場所でした行為とはあまりに温度の異なる思いを胸に、唇を重ねる。
力の入らぬ柔らかい感触に、たまらず涙が零れてしまう。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「ありがとう、かんな」
ああ、見慣れた笑顔。