もうLOVEっ! ハニー!
第16章 台風の目の中
「関係ないです!」
さっさと逃げてしまいましょう。
踵を返して図書室とは逆にずんずん進む。
目線だけ振り返ると、中庭でアリスは手を振っていた。
なんですかその余裕。
なんでそんなに無邪気に。
ぞわぞわと頬が痒くなって、手の甲で擦る。
夏休みが終わったら、また毎昼休みに襲いに来る気でしょうか。
それは難儀にも程がある。
三年の教室に向かおうとしていた足を止め、踊り場から校庭を見下ろす。
もうすぐ午前の部が終わるはず。
そしたら、どちらを訪ねましょう。
こばるさんか、ガク先輩か。
口座のことを解決するには早い方がいい。
箱根旅行まで二週間。
再び部室棟に向かう。
「ごめん! 確かにそれからだよな。でも午後は練習試合だからオレついてけないんだよね。陸とかマリケンに頼めたりする?」
パチンと合わされた両手に頷くしか選べない。
汗だくのこばるが、首元のタオルで口を拭う。
「そういえば、もう三年生は引退したんですか」
「あ、ガク先輩のこと? いや、一時間後には講習抜け出して試合来るはずだよ。見てく?」
見ていきたい。
とても見ていきたい。
でも銀行も済ませたい。
悩みあぐねていると、集合の笛が鳴ってこばるが走って戻っていってしまった。
一時間後。
今から急いで銀行に向かえば、後半だけでも見られるかもしれない。
大丈夫。
一人でもできるはず。
今日は歩いてばかりだと思いつつ、駅前に向かって足を進めていく。
カフェの隣の銀行は、お盆直前で駆け込み需要のためか混んでいた。
これは間に合わないかもしれないと気を落としつつ、整理券を受け取ってソファに腰かける。
なんだか急に社会人になった気分です。
銀行口座。
高校生にも作れるものなのですね。
途中の百均で調達した印鑑と、財布の中の保険証を念入りに確認する。
お金を稼ぐ。
卒業したら、さらに、目の前に迫る問題。
考えたくないものですね。
ふと、ガク先輩はどの大学を出て何になるのだろうと想像が膨らむ。
理系なのか文系なのかで言えば、文系の陽気な人が多そうなゼミに入りそう。
職業、なんだろう。
そのままモデルにもなれそうですし。
夢の話はまだしていない。
今度聞いてみましょう。
そうなると、自分に返ってくる。
私は、何に、なりたいんだろう。