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もうLOVEっ! ハニー!

第16章 台風の目の中


 結局帰ってきたのはバスケ試合が終わった後。
 次の試合がいつなのか聞こうかと考えつつ、二階への階段を登っていると、つばるが横を通り過ぎる。
 ちらと目は合うものの、足は止めず。
 つくづく奇妙な寮生活。
 本来なら教室で無視さえすれば関わることもないはずの二人が、私生活まで重なる。
 ぼーっと足を運んでいたので、気づくと目の前が壁になっている。
 間違えて三階まで来てしまったと踵を返そうとすると、踊り場に清龍が立っていた。
「何してんの」
 ですよね。
 一日に二回も遭遇するのかと辟易しつつ、急いで横を駆け下りようとする。
 運動神経に自信が無いくせに。
 案の定もつれた足に、急いで手すりに捕まろうとすると、足音が近づいてグッとお腹に腕が回される。
 支えてくれたのだと認識する前に嫌悪感が勝り、両手で抜けようともがく。
 至近距離でシャンプーの香りまで鼻をくすぐり、ゾワッとする。
 髪長いんですよ。
「落ち着いて」
「離してください」
 ジタバタと抵抗を繰り返していると、ダンボールを下ろすように踊り場に運ばれて、手が離れた。
 あっさりと身が自由になったので、そのまま逃げようとすると、手を取られる。
 ギュッと掴まれて、進めない。
「なにするんですか」
「お礼もなし?」
「……ありがとうございました」
 もういいですか、とばかりに睨むと、清龍が帽子をクイと上げて目線を返す。
 ああ、嫌だ。
 その目は見たくない。
「卒業するまでその態度続けんの?」
「……当たり前です。何をしたかわかってますか」
「洗い流せとは言わないけど。流石にやめてくれないか。周りに悟られたくないだろ」
 早く誰か上がってきてください。
 階下に見える二〇一からこばるが出てこないかと思いつつも、まだ部室棟だろうと絶望する。
 ぐいと引き寄せられて、咄嗟に息を止める。
 目の前にした顔は無表情でなく、怒りと悲しみが綯い交ぜになった迫力。
「いい加減にしないと、ガクに全部バラすぞ」
 告げられた言葉が理解出来ずに、動きが止まる。
 何を言ってるんですか、この男は。
「な、な……」
「それが嫌なら、普通の後輩らしく振る舞ってくれ」
 罪状が読み上げられたように視界が暗くなる。
 拒絶すら許さないのですか。
 手を引き抜こうとしても、決して力が緩まない。
「わ、かりました」
 

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