もうLOVEっ! ハニー!
第16章 台風の目の中
美弥と話した翌日。
朝から岳斗は気が焦っていた。
髪をセットし、ピアスを付けて、鏡の自分の情けない顔に苦笑する。
今日は夏期講習三日目。
清龍とは隣のクラス。
昼休みにでも話す機会が作れるか。
もしくは早朝の屋上に突撃するか。
そもそも話すべきか。
学習道具を確認しながら、消えない眉間のシワを揉みしだく。
一体入寮前にいつどこでかんなと接点が。
考えたって何も浮かんでこない。
早乙女兄弟のように親族という可能性を考えてみても、それにしては接点が無さすぎる。
そもそもふたりが話しているのを見たことがない。
美弥が察した理由を聞けば、キャンプの時に神妙に話すふたりを見かけたからだと。
いや、ムズいわ。
常にかんなを監視しとる美弥とちゃうし。
しかしもっとよく見ておけばと後悔が募る。
玄関で靴のかかとをトントンと打ち付け、朝の香りに満ちた林道を抜ける。
今朝はウォーキングをサボった。
寝不足が続いている。
今回の小テストはボロボロやろな。
教室につき、受験に向けてピリついた空気の中でペンを回しながら昼休みの流れを考える。
清龍をどこに連れ出すか。
やっぱ部室か屋上か。
配られたプリントの問いをスラスラと埋めつつ、こんな時でも効率よく計算する頭に呆れる。
余程低得点をとりたくないのだ。
チャイムと同時に岳斗は教室を出た。
隣の教室の後ろのドアに手を付き、入学時からの親友の名前を呼ぶ。
窓際の席で頬杖をついていた清龍は、気だるく立ち上がった。
「どした。ガク」
「午後に影響出るかもしれんけど、大事なハナシ」
「屋上行く?」
「そうしよか」
蝉の声がやかましいほど響く。
流石に寮の屋上以外では煙草を吸う気は無いらしく、清龍は手持ち無沙汰にフェンスにもたれた。
転落防止に三メートルほどの金網で囲まれている。
「それで、何の話?」
いつも通りの表情。
いや、ほんの少しの警戒。
「このごろ俺のこと避けとるやろ」
「なにそれ。女子かよ。そんなこと言いに貴重な小テスト前の時間奪うわけ?」
せやな。
アホやな。
でもスッキリせんのよ。
「お前さ……春休みに初めて一年らに会った時のこと覚えとるか」
「……一応」
何を聞かれるのか察したように、清龍はフェンスから離れて岳斗に近づいた。