もうLOVEっ! ハニー!
第16章 台風の目の中
内線電話が鳴ったのは二十二時。
シャワーも行かずに、ベッドで横になってた頃。
出ると、優しい声。
「夕方どっか行ってたん?」
「すみません……」
「いや、俺もこばると反省会長引いたし、遅くに訪ねるんもなーって」
電話でよかった。
隣にいなくてよかった。
あまりに見せられない身体を、晒していなくて本当によかった。
涙がポロポロと落ちていく。
「具合悪くて、なる先生に診てもらってました。明日は一日寝ます」
「そかそか。ちょっと会いたかってんけど……せやったら、明日は汐里の飯だけ運びに行くから」
「ありがとうございます……」
「かんな」
ビクリと肩に力が入ってしまう。
「旅行無理せんでええからね。体無理せず。講習明後日には終わるから、そしたらいっぱい一緒に過ごそな」
今朝までなら嬉しい言葉だったのに。
一緒に過ごすことへの恐怖が感情を奪っていく。
「先輩も……受験勉強優先してくださいね」
「心配せんでも、成績右肩上がりやから。図書館デートのお陰やね」
ふふ、と笑いがつられても、心は乾いたまま。
太陽のようなこの人に、何も知られたくない。
「好きやで、かんな。おやすみ」
「私もです、おやすみなさい」
ガチャりと受話器を置く。
太ももに押し当てた両手が震えてる。
清龍先輩に犯されました。
言ったらどうなるんだろう。
わざわざ二人きりになって。
前科のある男にさらに良いように扱われて。
銀行口座を作りに、なんて不自然な親切の裏にあんなにも暗く醜い感情を隠して。
洗面台に向かい、手を洗う。
顔も洗う。
首も洗う。
鏡には酷い顔した自分と、遠慮なく付けられた赤い点々、歯型。
もうどれがガク先輩のものかわからない。
耳の中まで気持ち悪い。
何度拭き取っても、おしりの中にもずっと残っている気がする。
なんで記憶の中で死んでてくれなかったんでしょう。
私の何が刺激したと言うんですか。
床に擦られた肩周りが痛い。
泣きすぎて目の周りもひりついてる。
ダメだ。
今すぐ洗い落としに行かないと。
着替えを抱いてシャワー室に向かう。
最大限まで出力を強めて全身を洗う。
こんなことで、私を不幸にできると思わないでくださいよ。
こんなことで……
三日後の約束が強気を打ち砕く。
今度こそ写真は撮られてしまった。