もうLOVEっ! ハニー!
第18章 砂の城を守って
会場に着き、控え室でユニフォームに着替えて、その上からジャージの上を羽織ってランニングを始める。
地面を蹴って、蹴って、雑念を吹き飛ばそうとしてるのはこばるだけではなかった。
岳斗もまた、度々飛んでいく思考を目の前の試合に結びつけようと集中していた。
華海都寮の生徒が来るまで二時間。
汗を拭いつつ、ひたする走る。
それから持ってきたラダーでタップ練習。
足首をぐねらないよう。
凡ミスで怪我をしないように。
それだけを意識して練習をこなす。
休憩でスポーツ飲料を飲み、パス練習に移行する。
「ガク、どこ投げてんだよ」
「すまん」
指先一つブレただけでボールは拗ねる。
繊細に扱わないと、望んだ場所に飛んでくれない。
「こばる! 走りすぎ」
「ごめん! もっかい」
頭を悩ませるエース選手二人に、監督は渋い目線を送っていた。
隣のマネージャーを手招きして呼ぶ。
一年の初々しい女子だ。
「なんですか、監督」
「ミーティングの後でガクとこばるだけ残るように、伝えてきてくれるか」
「了解です!」
トタトタと掛けていく小さい背中を見る。
さて、と。
学園の顧問十年歴の監督は、今年こそ全国に行けるメンツだと確信していた。
望むならば早乙女弟もスカウトしたかったが、丁重に冷静に断られ続けたのが残念だ。
それにしても、この歳の男子チームというのはムラがあまりに大きい。
失恋でもしようものなら、入れ替わるスタメン。
今回ばかりはそうはいかない。
ミーティングを五分で終えて、控え室奥の階段下で二人を待つ。
すぐに現れた青年は、どちらも暗い顔のまま。
「なんで呼んだかわかるか」
「ミス多いからやろ」
「動き悪くてすんません」
素直な態度の可愛らしいこと。
「違う。ここだよ」
頭をとんとんと指差すと、わかりやすくガックリした表情に変わる。
「お前らが何に悩んでるかは聞かん。これから五時間だけ完全に忘れろ。五時間だ」
「ギリ決勝前に思い出すやんけ」
「その頃には吹っ切れてるだろ」
ニヤリと笑みを返す岳斗は大丈夫そうだ。
こばるはまだ表情が固い。
「弟くんのことは柳さんから聞いてる。打ち上げは出なくていい。いい結果報告してやろう」
「……うっす」
「ほら、戻れ戻れ」
パン、と手を叩くと若い二人は表情を切りかえ、踵を返して走り去った。