もうLOVEっ! ハニー!
第18章 砂の城を守って
自己、嫌悪。
ホイッスルの音を聞き、岳斗は素早くポジションにつきながら眉間に皺を寄せる。
既に後半に入り、息も上がってる。
点差は六点。
逃げ切りたいところ。
「上がれ、上がれー!」
指示を出しながら、二秒で形勢が変わる緊張感の中で相手の動きを読む。
こばるに目配せして、マークがついたところで他のメンバーにパスを出す。
窓から差し込む日光と、高い天井から照らされた蛍光灯の明かりで視界が白い。
足音とボールの弾む音。
「リバウンド! 油断すんなっ」
こばるが素早くフォローする。
横目に監督を見ると、勝ちを確信してるような表情に嫌でも心が踊る。
胸元にボール。
二人が進路を阻む。
「三点!」
指示すんな、うるさいわ。
誰にも届かぬジャンプをして、シュートが決まる。
歓声と、相手チームの殺気。
ああ、くそ。
もっと楽しいはずなのに。
腕で首の汗を拭って、目線を這わす。
俺に求められてること。
読み取れ。
こばるが構えた。
ロングパスだ。
相手より一瞬早く駆け出す。
「ちょ、遠すぎ」
ゴール下のラインスレスレでボールを弾き、なんとか転ばぬように振り返る。
選抜に選ばれた一年がこぼれ球を掬いとり、シュートする。
あっという間に点差が開く。
大丈夫。
きっと大丈夫。
あの時過ったんは気の迷い。
今更なしにはできないくせに、不安だけは一丁前に顔を出してくる。
「ガク先輩!」
「見えとるって」
突っ込んできたドリブルの足が止まる。
片足を軸に方向を変えて味方に救いを求める。
残念、ガード済み。
焦って出そうとしたパスボールを奪い、ドリブルで突破する。
「こばる、決めや」
ボールを受け取ったこばるが力強く視線を返す。
今日の主役はあいつ。
俺やない。
わあっと応援の声が上がる中で、終了の音が鳴り響いた。
鼓膜はその音を拒絶して、静かな世界で呼吸と心音が耳を独占する。
ピントが合わさり、かんなが拍手する。
いい笑顔やな。
手を振ろうとしたらチームメイトの雪崩に揉みくちゃになった。
「勝ったー!」
「ファインプレー多すぎ、ガク!」
「ちょお、熱い熱い」
後輩たちの熱狂ぶりに押されつつ、挨拶を済ませて控え室に向かう。
そこは勝利と敗北が混ぜ合わさった空気。
大会でしか味わえない。