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もうLOVEっ! ハニー!

第18章 砂の城を守って


 こばるがポンと肩をたたく。
「午後は準決勝と決勝っすね」
「汐里の差し入れ食べ行こか」
 監督に伝えてから控室を出る。
 他のチームメイトは注文した弁当を受け取りに走っている。
 廊下を歩きながらジャージに腕を通す。
「オレ前半負けるかなって思ってました」
「奇遇やね」
 太陽はもうすぐ天頂。
 蝉の声が外から聞こえてくる。
「やっぱり? オレも先輩も凡ミスしまくりでしたよね」
 監督はどう思ったやろな。
 何度も視線は飛んで来ていた。
 ただ任せると、メッセージを込めて。
 階段を登り、応援席に出る。
 他校の生徒が通り過ぎながら、こちらを見上げてくる。
 そないに目立ちますか。
 こばるがにやにやと振り返る。
「何回か苗字呼ばれてますよね」
「知らん知らん」
 意識したことないわけじゃない。
 一年の時から選抜に選ばれて、大会常連にもなると、他校にもなんとなく見覚えのある顔が増えてくる。
 うちの学園の一般枠は普通に近所の高校と同中も多い。
 いつの間にか名前が広がっているのは、把握していた。
 バスケだけ見て告白をしてきた女子もいる。
 ただこの二年間彼女を作らなかったのは、失恋ダメージが一年と、将来が見えない自分への不安が一年。
 結局未だに進路も決まっていないのだが。
「あ、英雄たちが来たよ」
「外旋やで、隆にい」
 ああ、安心する。
 チームメイトも居心地はいいが、寮の特異な空気は他にない。
 かんなは、ルカと賢の間の席から手を振った。
 尚哉はさらにその隣。
 今朝の暴走を思い出して額を押さえる。
「なんだ、二日酔いか」
「笑えねえわ、アニキ」
 汐里がカラカラと笑い、全員でぞろぞろと会場を出る。
 日差しが降り注ぐフリースペースには、まばらに選手たちが陣取っていた。
 空いている壁際にシートを広げて、深めの紙皿とコップを配られる。
 去年を思い返しながら、スプーンを受け取る。
「夜遅くまで仕込んだビーフシチューだぞ」
「味噌汁飲みたい人はこっちにコップ寄越してね」
 汐里と隆人が流れるようなコンビネーションで準備する。
 空いている所に腰を下ろすと、右隣にこばる、左にかんなが座る。
 円を描いて、向かいに大人二人だ。
「いただきまーす」
 各々が手を合わせて、ほんのり温かいビーフシチューを口に運ぶ。
「え、うっま」
 こばるが目を丸くする。

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