もうLOVEっ! ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
食べ終えた寮生が続々始業式に向けて移動を始める中で、私とガク先輩は西廊下にいました。
私は壁に背中をついて。
ガク先輩は私を見下ろすように壁に肘をついて。
「独断ですみません……」
「あんな行動力あるとは、思わんかった」
「私もびっくりです」
自分でも、馬鹿だなと思う。
人の人生に口を出すなんて。
頬に手が添えられる。
「そんなに心配かけてんの、俺」
「いえ、違くて……勉強熱心なのも知ってますけど、卒業したらだって、こんな機会なかなかないですし。たまたまルカさんが隣に座ったから、つい」
言葉を続けるために、ぎゅっとガク先輩のシャツの裾を握りしめる。
「あんなに話が進むとは思いませんでした。でも本当にワクワクしてて……」
その手を大きな手が包み込む。
見上げると、呆れたような笑顔。
「俺が、色んな服きて、カメラに笑って……そういうん向いとる思ったん?」
だって今ですら凄い魅力的な表情。
「思いました」
手を引かれて、気づいたら胸の中でした。
ぎゅうっと力強く抱きしめられる。
「ありがとう。考えてくれて」
心臓の音が聞こえる。
胸板に顔を埋めて。
「この夏休みいっぱい情けないとこ見せてごめん。かんながくれたチャンス、精一杯挑戦してみるわ」
「何言ってるんですか。あんなにバスケで格好いいとこ見せてくれたじゃないですか。ガク先輩が夏休み初日に声をかけてくれなかったら、私この一ヶ月きっと、引きこもってました。最高の夏休みでした。だから、感謝しかなくて」
言い終える前に唇が重なった。
部屋の中じゃなくて、廊下だから、いつもよりもドキドキしてしまう。
舌は触れ合わず、唇だけが、互いのやわらかさに身を委ねるように押し付け合う。
「ほんまに可愛いな」
幸せを感じる器官があるとしたら、唇の中にあるのかもと思うほど、ふわふわと温かい時間。
予鈴がなって、パッと離れる。
「やば。走ろか」
「はい!」
悪戯に笑いあって、玄関に急ぐ。
転ばぬように歩幅を合わせてくれるのがわかった。
校舎に向かって、雨上がりのぬかるんだ道をパチャパチャと。
靴下も靴も泥だらけになりながら。
玄関で上履きに履き替えて、体育館に向かって廊下を走る。
既にほとんどの生徒が中に揃い、注目を集めぬように寮生の列に向かった。
息切れしながら、楽しくて仕方なかった。