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もうLOVEっ! ハニー!

第19章 友情の殻を破らせて


「かんなちゃん、先頭並んで」
 こばるに手招かれて先頭へ。
 岳斗は三年の列へ。
「こばるさん、私ここでいいんですか?」
「つばるもいねえし、一人で並ぶの寂しいだろ」
「優しいですわね、こばるは」
 隣の先頭に立つ蘭が笑った。
 通りでいい香りがすると思いました。
 その後ろの美弥さんからも視線を感じます。
「こばりん……憧れの先輩の彼女に手を出すような外道じゃないよな」
「怖すぎっしょ、出さねえよ」
 さらにチャイムが鳴って、式典が始まった。
 他の在校生も休み明けでソワソワした空気に満ちていて、一度も全員が黙ることは無かった。
 空いた一ヶ月を埋めるように、生徒たちはヒソヒソと内緒話に夢中。
「それで現場は見に行くのかしら」
 先頭だと言うのに蘭が囁く。
「撮影のことですか? 行けませんよ」
「あら残念。借りてきた猫みたいにオドオドする岳斗が見られる特権なのに。ルカの報告じゃ物足りないものねえ」
「ボクも候補生ってことで忍び込もうかにゃ」
「無理よ、短足豚ちゃんには」
「流石に許さないよ、蘭」
 教員らとともに壁に並ぶ隆人が咳払いをして、三年女子たちも口を噤んだ。

 いよいよ二学期が始まる。
 村山薫も早乙女つばるもいないことに、どんな好奇な目線が向けられるだろう。
 考えたくないけれど、避けられません。
 一年の教室に向かいつつ、足取りが重くなる。
 泥の着いた靴下が乾いてカピカピしてきた。
 後は教材確認とホームルームだけなので、一時間も耐えれば済む話。
 教室に向かっていると、お尻にそっと手が添えられて飛び上がった。
 手の主を見上げると、御巫アリス。
 予想通りと言えばそうなのですが。
「なにすんっんんん」
 流れるように唇を奪われ、たくさんの生徒の列の中で時が止まる。
 ローズの香りと恍惚な笑み。
「今学期もよろしくね、かんな」
 ルンルンと足取り軽く去っていく背中に、かける言葉も見当たらない。
 目撃していた同級生らが声をかけてくる前に、急いで教室に飛び込んだ。
ー油断してんじゃねえよー
 刺すような言葉を投げるつばるは、そこにいない。
 冬までは来ないのだから。
 席に着くと、三鷹が話しかけてきた。
「ねー、つばるは休み?」
「はい。しばらく休みます」
「なんでなんで」
 訳は担任が話すでしょう。
 曖昧に流して、荷物を整理した。

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