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もうLOVEっ! ハニー!

第19章 友情の殻を破らせて


 二時間ほど遊んで、あくびがこみ上げてきてから、ルカが言った。
「そろそろ帰るけど、奈己は悩みない?」
 ベッドから降りて肩を回しながら。
 亜季も眠そうにカードを片付けている。
「ちょっと寝つきが悪いだけだよ」
「亜季の寝言がすごいんじゃないの」
「そうそう、もうラジオみたいなんだからあって違うしー」
 ふふっと笑ってルカは伸びをした。
 裾から覗く腹筋の無駄のないこと。
 亜季は案の定釘付けだった。
「ルカはさ、格好いいモデル見て惚れたりしないの」
「何度も言わせないで、亜季。興味がないの」
「じゃあどうして」
 モゴモゴと。
 かすかに聞こえたのはアンナの名前。
 ルカは呆れたように首を振る。
「やめてください。同業者を色目で見るなんて、仕事に集中できてない証だから。ありえない」
「そっか」
 よかった、と続きそうな情けない声で。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみー、ルカ」
「来てくれてありがとう」
 ルカが出て行った後、しばらく扉に額をつけた。
 冷たさが頭痛を鎮めてくれる。
 ルカが来てから部屋の香りが変わった。
 このフローラルな香りは異物だ。
 肺まで染められていく気がして、頭が痛かった。
「奈己、バナナチップス余ったやつ、ラップしとく?」
「そうだね」
 ラップのある戸棚に手が届かないくせに。
 助けてやろうと、後ろから手を伸ばす。
 意固地になって背伸びをしていた亜季が、バランスを崩した。
 とっさに抱きとめた腰が、グッと密着する。
「わわ、ごめん」
 立ち直ろうとした亜季が足を挫いて、倒れこむ。
 支えようとした腕ごと引き下ろされて、仰向けに倒れた亜季の上に馬乗りになる。
「イタタ……腰打ったあ」
 急いで離れようとしたが、ズキンと頭が痛んでぐらりと世界が反転した。
 とっさに床に手をついたが、身を起こせずに横に転がった。
「え、奈己! どしたの」
 心配して顔を近づけた亜季が、言葉を失う。
 気づいたらその頭を引き寄せて、唇を重ねていたから。
 見開いた両目を見て、手を離す。
 ばっと飛び起きた亜季が、口を手の甲で押さえた。
「びっくりした……心配したのに、なんで」
 床のひんやりした感触が、後頭部から痛みを和らげてくれる。
 このまま冷やさないと。
 欲望に負ける前に。
 感触に溺れる前に。
「事故ですよ、気にせずに」
 嘘つきが。

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