もうLOVEっ! ハニー!
第20章 秘密のシャーベット
「二つ目はなんですか」
急かすのも良くないが、沈黙も面倒で。
病室というのは嫌に静かだから。
時折ガラガラと廊下から何かを運ぶ音がする以外は、ほとんど静寂。
同室の患者もテレビはイヤホン派のようだし。
「あの日、司はカレーを作っとったらしいけど。何か変なことでもあったんかなって」
「ええ……マジでその質問でいいんすか」
そこで岳斗が眉を上げた。
「ああ。あ、そういうことやね。いや、かんなのことは聞かんよ。別に何も無かったとも思っとらんよ。けど、本人も言う気なさそうやし、つばるとの過去もお前の口からしか聞いてへんしな」
はは、と笑いが洩れる。
「なんだよ、そうすか。身構えてた俺がバカみたいじゃねえですか……あー、でもそうか。宇宿先輩あれから元気なわけないっすよね」
「せやねん。第一発見者やろ。あの後から料理作れんくなって、こもり気味になってー……本人と話せば済むんやけど、知っとることあったら聞いとこ思て」
「シャーベットですよ」
「シャーベット?」
鮮明に思い出す。
あの日の食堂での時間を。
つばるにはスイカ、清にはレモン、と差し出した時の表情。
落ちた後に駆けつけた後の告白。
「俺にはスイカジェラート、峰先輩には新作のシャーベットを振る舞ったんですよ。それが大失敗の味だったらしくて」
「珍し。司が失敗したん?」
「タバコ味だったそうですよ」
「タバスコじゃなくて?」
「ガク先輩は身近で手に入る毒ってなんだと思います」
「急やな。えー……消毒液とか?」
「アルコールかニコチン、ですよね」
「ニコチン……タバコ? マジか。いや、非現実的すぎるな」
「非現実的ですよ。屈強でもない俺が峰先輩巻き添えにできたのは、あの日先輩が具合が悪かったからです。でもこれ、オフレコにしてくださいね」
それ以上は、言わなくてもいいだろう。
岳斗は何かを組み立てるようにシーツのシワを見つめて、考えている。
仮に結論に辿り着いたとして、何故そこまでのことに至ったのか謎が残る。
友人に毒を盛るまでの感情。
そこから先は本人に聞かないと。
「そうか。教えてくれてありがとな」
「あ、先輩、俺からもいいですか」
「なに?」
「ちゃんと避妊してますよね」
二秒ほどしてコン、と肩を小突かれる。
「当たり前やろ」
「当たり前、なんだよなあ」
画像を思い出し、呟いた。