もうLOVEっ! ハニー!
第20章 秘密のシャーベット
アリスの存在を話さなかったのは、話す必要がないと思ったから?
こうなる未来が見えていたから?
彼氏ができた今、彼女を気にする立場じゃないから?
いいえ、どれもきっと違うでしょう。
言葉に窮している間に、岳斗の笑顔が消えていく。
「……かんなは俺を困らせるんが上手いな」
独り言のような低い声とともに、暗い視線が全身を貫く。
「ち、違う、んです」
「やっと喋った。何教えてくれるんかな。今日初めてアンナの口から聞いた俺のマヌケヅラの感想?」
間髪入れずに降り注ぐ言葉に、つい後ずさってしまう。
「ごめんなー、言葉選べんくて。俺こうなるんが嫌で彼女作っとらんかったけど……嫉妬深いってもうわかるやろ。結構我慢強いとは思うけどな。惚れたんやから、守らんとって。けど」
下げた足がベッドにぶつかる。
そのままトスンと腰が抜けてしまう。
目の前に立った岳斗が、ゆっくりベッドに両手をついて見下ろしてくる。
「俺にも限界っつうんがあるで」
軋むベッドに、凍りついた視線。
逃げ場のなさに、体が悲鳴を上げている。
喉が渇いて、呼吸が辛い。
「アリスと、何があったんかなあ」
震える声色に、ごぐりと唾を飲み込んでから、口を開いた。
「む、村山さんの話からしないとです」
その言葉が脳に達するまで数秒。
岳斗は眉をひそめて訊ね返した。
「村山薫? アリスとつながっとるんか」
「違います。あの、一学期の半ばごろに……靴箱にいたずらされてて、上履きに画鋲刺されたりとか」
思い出して眼球の奥が熱くなる。
もう過ぎ去ったはずのいじめの過去が蘇ったあの朝。
隆人さんに協力を頼んだこと。
視聴覚室で見た真実と、アリスとの衝撃的な出会い。
話が進むにつれて、岳斗は頭を優しく撫でてから隣に腰掛けた。
一学期最後のあの事件がない限り、続いていたであろう嫌がらせ。
美弥さんを近づけさせまいと女子トイレでの事件。
それからつばるが動いてくれたこと。
「だからルカのあの態度か。ま、あの流れでつばるの名前出したらどうなるかくらい、アンナ以外は思いつくやろ」
「すみません……あの頃は中学のいじめっ子たちが押しかけてくるかもしれないって、つばるがそれを止めようとしてたのもあったので。村山さんについても相談して、流れでアリスのことも」
「結構信頼してんだ。つばるとのこと」