もうLOVEっ! ハニー!
第20章 秘密のシャーベット
腰に手を滑らせると亜季は青ざめて扉を押し開けようと、必死に横から逃げようとする。
その腕を掴んだのが遅かった。
扉が開いて、派手に亜季が転ぶ。
手を貸そうと踏み出すと、更衣室の引き戸が開いて、服を着たこばるが目をぱちくりとした。
「え、なに……すげえ音したから見に来たけど。なにやってんの、お前ら」
亜季が悔しそうに唇をかみしめて立ち上がる。
そのまま逃げたいだろうに、まだ髪が泡だらけなので、足早にこばるの使っていた個室に飛び込んだ。
「奈己、どした」
「見てたでしょ。亜季が転んだだけ」
「そうか? 夫婦喧嘩なら部屋でやれよ。嫌だぜ、オレ、お前らがいたした後のシャワー使うの」
あえて突き放すように言うのは、この事態を重くしたくないからだろう。
こばるは優しいから。
「こんなとこで盛ったりしないよ」
言葉通り、下半身が反応してなくて助かった。
さすがに今の現場で勃起でもしていれば、同期にとんだ醜態を晒していただろう。
今更ながら自分の愚行に笑える。
「とりあえずお前もさっさとシャワっちゃえば? 亜季が出てくる前に」
すると、流し終えた亜季が扉を開いて、こばるの隣を抜けてから更衣室に入った。
「怪我してないか見てやってよ、こばる」
「りょーかい。奈己、頭冷やせよ」
ぴしゃん、と閉まった扉を横目に個室に戻る。
出しっぱなしだった湯は熱湯近く、冷水を混ぜて温度を調整する。
今頃、亜季はこばるに足を確認されてワーキャーと喚いているだろう。
それでも、同じ部屋に帰らないといけない。
超えてはならないラインを踏み越えたのを、互いが理解している中で、何を話すだろう。
部屋を移動すると言われれば従おう。
このままでと甘いことを言えば、寝れない夜を始めてしまうかもしれない。
いや、余裕があるのは今だけ。
亜季が拒絶を全面に出してきたら、自分の心の方が先に折れてしまうだろうから。
未熟な暴走の向かう末路にはまだ、覚悟が決めきれていない。
更衣室に入ると、既に二人は出た後だった。
タオルで全身を拭き、新しい服に身を包む。
鏡を見ながら髪を乾かし、いつまでも白いままの束を指でとかした。
ルカの声が聞こえてから、すぐに扉を開けてしまった自分を反省する。
でも、最後のひと押しには充分だったから。
後悔するなよ、立木奈己。