もうLOVEっ! ハニー!
第3章 追いかけてきた過去
カチカチと。
秒針の音が嫌に響く。
嘘。
嘘みたいな現実。
目の前に、つばるが立っている。
私を見ている。
きっと、過去の私を透かして見ている。
寒気が止まらない。
「か、歓迎会は」
「終わったよ」
「な、なんでここに」
フッと不敵に笑う。
こんな顔、見たことない。
頭の中で警告音が鳴り響く。
でも、動けない。
「あっちにいたときはお前ずいぶん変わったって思ったけど、中学と一緒だな。俺を見る目」
近づいてきたつばるから逃げるように下がるが、部屋は広くない。
すぐに壁際に追い詰められてしまった。
心臓が鷲掴みにされたような恐怖。
誰かを呼びたくても言葉が見つからない。
トンと顔の傍に肘を着いて見下ろしてくる。
余裕ある顔で。
「都合いいよ、ここにはお前以外に中学の俺を知る奴はいないってことだし。兄貴も中学は別で、すぐにこっちに来たみたいだしな」
こんなに喋るの初めて聞いた。
元々必要最低限の言葉しか喋らない人だと思っていた。
「わ……私は大迷惑です。折角あの中学から全部を切ってきたのに」
意外に声はまっすぐ出てきた。
「卒業式の日にこっちに来たそうじゃん。そんなに行動力あったのかよ、お前。それとも……」
耐え切れないくらいの距離で囁く。
「いじめに耐え切れなかった?」
あ……
涙腺が緩む。
ほら。
弱くなった証。
震えて、泣いて。
バカみたい。
バカんな。
あだ名にふさわしい、過去の私。
ひどいな。
早乙女つばる。
なんで。
なんで、新しい私を潰しに来たの。
「最……低」
あの頃は言えなかった。
反撃の言葉。
だが、つばるは鼻で笑い飛ばした。