テキストサイズ

もうLOVEっ! ハニー!

第1章 生まれ変わり

「席つこうぜ……」
 つばるの一言でみんなが散る。
 私は血を垂らしながら教室から出ます。
「あー、痛いです。痛いですねえ」
 と、嫌味を言いながら。
 本当はとうの昔に麻痺してる。
 血を見て叫んだ一年の頃の私はいないのです。
 なんだ、血ですか。
 なんだ、包帯が要る程度ですか。
 別に自傷はしませんよ。
 自分は好きですから。
 洗面所で、手だけ軽く洗う。
 卒業式まであと十五分。
 髪の血はそれほど目立たない。
 くらりとして、洗面台にもたれる。
「おい」
 おや。
 初めて教室の外で話しかけられました。
 顔を上げると、つばるがハンカチを差し出している。
 幻でしょうか。
 気が狂ったのでしょうか。
「拭いとけ。目立つ」
 片言で、ハンカチを投げつけて。
 教室に消えた背中は、少し格好良かったですよ。

 証書を握り締めて、家族の来ない正門をぶらぶらと歩く。
 同級生が写真を撮り合う中、学校を出る。
 最後のいじめはあっけなかったですね。
 あれだけですか。
 頭を撫でる。
 固まった髪がごわごわと押し返す。
「バカんな!」
 門を出た瞬間に後ろから響いた声。
 振り向くと、舞花とその友人ABCたち。
「どうせ高校に行ってもあんたに居場所はないよ」
 わざわざ言いに来たのですか。
「……そうですか」
「あたしが死ぬまでいじめぬいてあげるから」
 舞花の眼は、いつもより大きくて、異常な光を帯びて。
「じゃあ、なんでさっきやらなかったんでしょうか」
 少し大きな声で言い返す。
 舞花が怯んだように組んでいた手を解く。
 私は回れ右をして、彼女に詰め寄ります。
「櫻井柚さんが私に電動鉛筆削りを投げましたよね。頭に直撃しました。あの瞬間、もう一度殴られたら私は簡単に死んでいたかもしれませんよ。どうしてやらなかったくせに、やれないくせにそんな捨て台詞を云うのでしょう」
「気持ち悪っ! 死ね!」
「舞花に寄んなっ」
「口先だけですか」
 パンと頬を証書の筒で叩かれる。
 歯を食いしばる暇もなく、口の中が切れて血の味がする。
「もう痛みなんか感じないんだよね、クズ。じゃあ今度はレイプでもしてあげよっか」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ