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もうLOVEっ! ハニー!

第5章 悪戯ごっこ

「三階……? ピアノ室と司先輩と清龍先輩の部屋しかねえのに?」
 去っていく背中を見ながらこばるは呟いた。
 そして、言いようのない嫌な予感がした。
 追おうとしたとき、廊下の奥から聞こえた口論に足が止まる。
「ちょっと、ガクやめなさいって」
「お前がかんなに何したか白状するまで帰らんで」
 つばるの部屋だ。
 ガク先輩、夜行くって言ってたのに……
 行動早すぎんだろ。
 頼りになるけど。
 岳斗の手に掴まれたつばるが迷惑そうな顔で拒絶する。
「何の話かわかんねーんですけど」
「ほお? とぼけるんや」
「……ああ。こばる先輩がなんか言ったんですね」
 あいつ……
 睨みが通じたのかつばるが此方に眼を向ける。
 そして緩慢に眉を上げた。
 見下すように。
「酷いな、兄貴」
 一瞬で寂しげな仮面を被った顔。
 母さん達を騙してきた顔。
「ガクもこばるも大人げないよ!」
 ほら。
 長谷茜を味方につけた。
 岳斗は納得いかなそうにつばるから手を離さない。
「茜。あっち行ってろ」
「やだ」
 即座に却下した茜を見て岳斗は「そうか」と呟くと、つばるを掴みながら器用にオレも引き寄せて部屋の中に入った。
「じゃあ、俺らは中で話すだけや」
 バタンと閉まった扉に茜の叫びがぶつかるが、すぐに部屋の奥に連れていかれた。
 ベッドに座った岳斗が早乙女兄弟を見つめて足を組む。
「なんなんですか、一体……これが華海都寮三年の歓迎の仕方ですか。いきなり押しかけて部屋にまで入ってきて」
「おう。そうや。まあ、その対象は問題児のみやけどな」
「兄貴、言いたいことあるなら直接話せばいいじゃん」
 話の最中で去って行った奴がよく言う。
 オレは米神がぴくぴく脈打つのを感じた。
「ガキやなー」
「は?」
 溜息交じりに言った岳斗に豹変するつばる。
 侮辱されることがなにより嫌いなのだ。
 昔から。
「詭弁に子供じみた態度。中学ではガキ大将やったんやろなー。けどここでまで通用させようと思たら甘いで。ここは変人揃いやから一筋縄じゃいかんし」
「意味わかんねーですけど」
 うーわ、そっくり。
 岳斗はこばると彼を見比べて小さく笑った。
 口調も気を抜いたら似てくる。
 敢えてそれを避けてるみたいだが。

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