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もうLOVEっ! ハニー!

第5章 悪戯ごっこ


「なんなんすか、本当に。こっち来てから落ち着く間もなくかんなかんなって。みんなして。あいつは何ですか。この寮の王女かなんかですか。本当鬱陶しい」
「あー。お前、かんなが好きなんか」
「なんでそうなるのか説明してくれませんかね」
 オレも尋ねそうになった。
 岳斗はもったいぶるように足を組みなおしてから不敵に笑った。
 空気が揺れて、つばるの部屋なのに彼の温度に染まっていくようだ。
「好きな女にちょっかい出すガキの延長線ちゃう? ほかの奴らが構うと嫉妬でイライラ。典型的やんか」
 つばるがかんなのことが好き?
 ふわりと心の底から浮かんだ考えが瞬く間に大きくなり、心の余白を占めていく。
 でも待てよ。
 あの食堂で交わされた視線を思い出せ。
 かんなは少なくともつばるを苦手に思っている。
 じゃあ、なんだ。
 つばるの片思い?
 兄ながら複雑な思いがぐるぐると渦巻く。
 いきなり危険な石を投じたものだ。
 頼んだ身ではあるものの非難がましく岳斗を睨む。
 その瞬間部屋に大きな笑い声が響いた。
 つばるが体を剃らせて愉快そうに笑っていた。
「傑作。面白いですね、ガク先輩って。ナニソレ、一目俺を見ただけでわかっちゃうもんなんですか?」
 こんなに笑うつばるを初めて見た。
 だがどこかその音の波紋は歪んでいて。
「せやな。傑作やな」
 岳斗はペースを乱すことなく相槌を打つ。
「今ので大体わかった。行くで、こばる」
「へ?」
「なんや。兄弟水入らずで話したいなら邪魔せんけど」
「いや。いいです」
 嵐のように部屋から出ていった岳斗を廊下に出るや否や問い詰める。
「何がわかったんですか、先輩」
「んー。内緒」
「えええ」
 足音が止まる。
 岳斗が神妙な顔で口を開いた。
「こばる」
「な、なんですか」
「これからおもろくなるで」
「へっ!?」
 カツカツと胸を張って歩きながら岳斗はほくそ笑んだ。
 他人のものは蜜の味、ってな。
 彼の鋭い目は一瞬だけかんなの部屋に向いた。
 その意図を知るものはまだいない。

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