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もうLOVEっ! ハニー!

第6章 思惑先回り

 蘭がくっと眉を上げる。
 よく見ると先輩の眉は黒く濃くはっきりしている。
「含みある言い方ね。非常識なのは薫だけじゃなくて?」
「なんていうか……つばるさんの方にもいろいろ」
「にー! 蘭。いくら蘭だからってかんなを問い詰めていじめたらボクが往復ビンタだよっ」
 隣の美弥がぐいっと私を引いて蘭から離れる。
「別に苛めたわけではないわ。勘違い雌豚には調教が必要かしら」
「サド気取りのビッチにも痛ぁいお仕置きが必要かもよ?」
「おっ、お二人とも落ち着いてください」
 全校生徒の流れの中でなんて会話を。
 私は焦って二人の火花を吹き消す。
「体育館とうちゃーく」
 先頭を歩いていた茜が大声で言ったので全員前を向いた。
 足を踏み入れた途端ウオッと熱気が肌にぶつかる。
 もうセットされたコート。
 審判が立ち、観客が囲む。
 寮生の団体からこばると岳斗とつばるが離れていく。
 舞台の奥に映写機で映されたトーナメント表を人混みから頭を出して確認する。
 一試合目。
 新入生チームと在校生チームC。
 確かこばるさん方はチームBでしたね。
 二試合目です。
 じゃあ、先につばるの試合。
 私は目を曇らせて人混みの後ろに下がった。
 見たくない。
 負けちゃえばいいのに。
 いや。
 それはだめ。
 三試合目まで残ってもらってガク先輩に負かされなければ。
 命令権はなくなる。
 ふと考える。
 仮に命令権を得たところで私は何を云うんだろう。
 早乙女つばるという人間に。
 二度と私にかかわらないで。
 これですかね。
 一番単純で効果抜群。
 三年間私を守ってくれるお守りになるお願い。
 いいですね、それも。
 でももしつばるが勝ったら?
 誰に何を命じるんでしょう。
 こばるさんに?
 ああ、考えるのはやめにしましょう。
 ポンと肩を叩かれる。
「一緒に観戦しない?」
「マリケン先輩! あと尚哉先輩も」
 歓迎会振りの二人にほっとする。
 ヘッドホンをぶら下げる手鞠賢と久瀬尚哉。
「……元気?」
 ぶっきらぼうに尚哉が尋ねる。
「私は元気ですよ」
 うまく笑えたでしょうか。
 尚哉は短く「そう」とだけ言って壁際に行ってしまった。
 美弥がそっちを一瞥して吐き捨てる。
「協調性ゼロナルシストめ~」
「まあまあ。ほら、くうは去年散々だったから」

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