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幸せな報復

第24章 幸せな報復 

 恵美は、憎い痴漢男をついに見つけた。
「どういうこと……?」

「浩志くんのお父さんが……あの人?」

 思わず息をのむ。

「違う……そんなはずない」

 そう否定しながらも、足は止まらなかった。気づけば勘太郎の姿を確かめようと、同じ車両へ乗り込んでいた。
 浩志に近づいた理由は、本当に勘太郎へ復讐するためだけだったのだろうか。

――違う。

 本当は、勘太郎という男に近づきたかったのではないか。

「また……触ってほしい……。……いや、何を考えてるの、わたし」

 自分の心に浮かんだ言葉に、恵美は激しく首を振った。

「わたしは学園のマドンナよ。

 男なんて興味ないはず。
 ……なのに、どうして?
 どうして、あの人が気になるの?」
 エルザは、人の懐へ入り込む術を知っていた。
 浩志の心を惹きつけることなど造作もない。 表の恵美は、誰もが憧れる学園のマドンナ。
 だが、その胸の奥では、エルザが静かに笑っていた。

「嫌……そんなの嫌」

 恵美は何度も首を振る。

「男とつながるなんて……そんなこと考えちゃ駄目なのに……」

 それでも心の奥から、別の声がささやく。
『浩志くんは、わたしを求めている』

『わたしも……あの子を求めている』

 恵美が浩志を見つめる。

 その瞳の奥では、エルザがゆっくりと主導権を握り始めていた。
 彼女の本能は、浩志の奥底に眠る"同族の匂い"を嗅ぎ取る。
 けだもの族の血が、静かに目を覚まし始めていた。
 一方、浩志も理由の分からない高揚を覚えていた。
 恵美の香りが胸を熱くする。
 鼓動が速くなる。
 身体の奥で、何かが目覚めようとしていた。
「浩志くん」

「え?」

「また明日ね」

 恵美は、さっきまでの葛藤が嘘だったかのように微笑んだ。
 その笑顔を見た瞬間、浩志も我に返る。

(僕でも……いいんだ)

「フツメンの僕だって、きっと輝いてみせる。田所さん、僕はもっと強い男になるから」

 その瞬間、浩志の中で目覚めかけていた狼男としての記憶は、再び静かに眠りについた。

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