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どこまでも玩具

第8章 任された事件

 目を開けると、荒野に立っていた。
 制服を着ている。
 地平線に、山々が並んで周りには何もない。
 頭が痛い。
 いつ、寝たっけ。
 夢だと気づいて記憶を辿る。
 そのうち、夢の中で考える行為がバカバカしくなった。
―瑞希ちゃん―
 河南ちゃん?
 俺は空を見上げた。
 しかし、予想外にも背中をポンと叩かれた。
「こっちだよ、瑞希ちゃん」
 ニコッと笑って河南はスカートの裾を持ち、会釈をする。
 この制服。
 見たことがある。
「また……大変そうな顔」
 スッと額に細い手を添えられた。
 頭痛が消える。
 無意識にその手を握った。
 少しびっくりした顔をする。
「河南ちゃん……いや、河南。教えて欲しいんだ」
 はっきり自分の声が聞こえる。
 こんな経験は珍しい。
 現実みたいだ。
 河南は風に流される髪を押さえながら頷いた。
「俺は、類沢先生について行っていいのかな……」
 なんてこと訊いてるんだ。
 これまでのいきさつを知らない河南に。
 夢の中の河南に。
 だが、俺は真剣だった。
 河南も笑わない。
 真剣に受け止めてくれた。
「ねぇ……瑞希ちゃん」
 握られた手をじっと見つめる。
 それからキュッと握り返して来た。
 心臓が脈打つ。
「それを決める時が来てるよ」

 起こした身に鈍痛が走る。
 あぁ、そうだ。
 あのまま寝たんだ。
 俺はリビングに横たわっていた。
 座ったまま眠って、倒れたのか。
 まだ暗い。
 時計は五時を指していた。
 随分早く目が覚めたものだ。
 類沢の部屋から物音はしない。
 経験から知ったのだが、類沢はほとんど寝息を立てない。
 いびきは勿論のこと、無音で眠るものだから、始めのうちは不気味だった。
 しかし、今は存在を感じる。
 類沢は、そこに、いる。
 寝てるのか起きてるのかは知らない。
 俺は河南の言葉を思い返した。
―決める時が来てるよ―
 どういうことだ。
 頭を抱える。
 これから、まだ何か起きるのか。
 俺は頭を冷やすためにも、家に帰った。
 荷物をそっと持って。

 家に着く。
 電気を点けて、自分の部屋に上がりベッドに倒れ込んだ。
 全身が大喜びして、筋肉は役目を放棄する。
 疲れた。
 泣き疲れたし。
 色々疲れた。
 目を瞑る。
 何も考えずに、あと二時間だけ寝てみよう。
 何かが変わるかも。

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