どこまでも玩具
第9章 質された前科
「瑞希!」
「金原、どした?」
放課後の面談時間だ。
ほとんどの生徒は帰っている。
「……アカの奴、今日休んでるだろ? 何回か連絡入れたんだけど出ねぇんだ」
すぐに、家に行くことを決めた。
ピンポーン。
インターフォンからの反応はない。
「留守?」
「朝から?」
新聞がそのままだった。
タンタン。
階段を上がってくる音がする。
タイツを履いた細い足が現れる。
「こんばんは」
アカの部屋の隣人だろうか。
共同アパートにそぐわない澄んだ声。
優しそうな女性が挨拶をしてきた。
ストレートの黒髪が揺れる。
シャンプーのCMにでも現れそうだ。
「あ……ども」
買い物袋を置いて、鍵を探る。
若い。
二十代後半だろうか。
「哲くんのお友達?」
「そうっスけど」
金原がぶっきらぼうに答える。
相手は笑顔を崩さない。
「昨日から帰ってないの」
「嘘だろ?」
つい声を荒げてしまった。
女性は少しびっくりしたように眉を上げた。
「行方……不明なの?」
「あ、いや」
まだそうと決まった訳じゃない。
そう言う前に相手は、駆け寄ってアカの部屋の鍵を開けた。
手には四本程、鍵が握られている。
「えっ、お姉さん……」
「大家よ」
まじかよ。
金原が口パクで言った。
少し躊躇ったが、中に入る。
「……いないわね」
部屋はアカと話した時のままだ。
カーテンは閉じられたまま。
荒らされた形跡もない。
旅支度もした跡はない。
「あ、遅くなったわね。私は栗鷹鏡子よ。ここの大家なの」
髪を整え、思い出したかのように自己紹介をした。
「ども。アカの友人の宮内瑞希です」
「……金原圭吾です」
「警察に連絡するわ」
「え?」
栗鷹はすぐに部屋を出て行った。
「ちょっ……待って鏡子さん!」
急すぎる。
余りの目まぐるしさについて行けない。
隣の部屋に向かうと、受話器を持つ栗鷹がいた。
金原が走って電源ボタンを押す。
「……なにするの?」
「警察は待ってくれ」
「理由がないわ」
大人だ。
冷静で、強気。
こっちは子供だ。
金原がアイコンタクトをする。
伝えてくることは一つ。
アカの父親。
もし彼が関わっていたとすれば、警察を呼んだところで解決しない。