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どこまでも玩具

第9章 質された前科

 むしろ法の元でアカを自分のものにしてしまいかねない。
 今は騒いではいけない。
 だが、どう伝える。
 金原はそこまでは教えてくれなかった。
 依然受話器を持ったままの栗鷹に近寄る。
 彼女は怯みも拒みもしなかった。
 ただ、次の反応を待っている。
「ワケを話します」
 俺は真っ直ぐそう言った。
 栗鷹はソファに座り、俺たちに説明を促した。
 仕事着だろうか。
 スーツ姿に少し緊張する。
 軽い飲み物を置く仕草一つ一つに年齢差を感じる。
 そういえば、女性の部屋に入るのは小学生ぶりだな。
「さ、どうぞ」
 栗鷹はコーヒーを飲んで頷いた。
「確認させて下さい」
「なに?」
 息を吸う。
「ここに、アカを探しに来た男はいますか?」
「……云う必要があるの?」
 怪訝そうな声。
 無理もない。
 金原は腕を組んで唇を舐めた。
「アカには」
 間を開ける。
「隠したい過去があります」
 髪を掻き上げ、彼女は目を見張る。
「その過去を暴こうとしている男がいるんです。アカはその男に殺されかけた過去もあります」
「本当?」
 嘘は吐いていない。
 肩に力が籠もる。
「ここ数年、アカはそいつから逃げてました。でも、三日前に携帯に電話が入ったんです。一言……『会いに行くよ』って」
「俺たちはアカが、その男に攫われたんじゃないかと思ってます」
 栗鷹が目を泳がせる。
「もう一度訊きます。ここに、アカを探しに来た男はいますか?」
 少し考える時間が空いた。
 三人の息遣いだけが場を支配する。
 どうなんだろう。
 ここまで事情を隠して協力を頼むのは失礼かもしれない。
 しかし、話すわけにはいかない。
 アカが一番隠したい過去を。
 誰にもバレたくない過去を。
「……来たわ」
「えっ」
「来た。中年の男が。知り合いだって」
「アカがいるって言ったんですか」
 栗鷹は眉をしかめ、一瞬泣きそうな顔を見せた。
 胸が締めつけられる。
「知らなかったんだもの。紅乃木くんの親戚だって……怪しさなんて全くない普通の人だったから」
「それで?」
「その男、なんて言ったんですか」
 聞きたくないパターンがいくつかよぎる。
 そんなこと考えても仕方ない。
 真実を一つずつ掴まないと。

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