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どこまでも玩具

第9章 質された前科

「……そうね」
 ふらふらとオレの側を通る。
 キッチンに入って行くのに、なぜか鳥肌が立った。
 そして出て来た彼女は、予想通りのモノを手にしていた。
「私が、哲を、守らなきゃよね」
 出刃包丁。
 サァッと血の気が引く。
「金原くんが正しいわ。私、行かなくちゃいけなかったのね。哲に断られたって……あの男を止めなきゃ」
 納得した。
 やはり貴女は母親だ。
 アカの母親だ。

 とりあえず瑞希も連れてきて計画を練ろうということで出て来た。
 夫が居なくて良かった。
 包丁を研ぐ妻の顔を見たらどうなっただろうか。
 遺伝子は凄い。
 自分の手を見下ろす。
 ひょっとして、オレがさっき啖呵切ったのも親父とかの影響だったり。
 有紗のあの無鉄砲さは母親から来ていたりすんのかな。
 何を考えてんだか。
 携帯を取り出す。
 明日は休日。
 紅乃木襟梛の夫は出張。
 決行は明日しかないか。
 番号を押す。
 時刻は十時。
 まだ、寝てはいないだろう。
「もしもし?」
 静かだ。
「瑞希は寝てるけど」
 立ち止まる。
 携帯を落としそうになった。
 聞き覚えのありすぎる声。
「……なんで類沢せんせが瑞希の携帯持ってるんだよ」
「なりゆき、かな」
「誤魔化すな」
「協力に来たんだよ」
 協力?
 オレは眉を潜める。
「紅乃木哲の件、何か手伝えないかって」
 瑞希。
 相談したい相手ってこいつかよ。
 目頭を押さえる。
 なんでまた類沢なんだよ。
 夜道を歩く足取りが重くなる。
 早くしないと終電に間に合わない。
 だが、止まる。
「瑞希が、頼ったんだよな?」
「そうだね」
 ふーっと息を吐く。
 方向を変えた。
「今、瑞希の家にいんの?」
「来る気?」
 よくわかる。
 呆れるくらいだ。
「当たり前だろ。オレはアカがいない分も瑞希を守らなきゃなんだから」
「それはお疲れ様」
 ムカつく。
 こいつ絶対忘れてる。
 オレが恨み持ってること。
 覚えられてても困るけど。
「合い鍵でも持ってるの?」
「無きゃ締め出す気かよ」
「よくわかったね」
 携帯折ってやろうか。
 苛立ちも伝わってるんだろう。
 本当にムカつく。
 こっちは忘れる努力してんのに。
 飄々としやがって。
 いつまでも適わない位置にいやがって。
 ピンポーン。
 さぁ、出ろ。

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