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どこまでも玩具

第10章 晴らされた執念

「警察に……行きましょうよ」
「母さんっ」
「哲! これは、しなきゃいけないことでしょ」
 アカが拳を握る。
 頭が混乱しているようだ。
「襟梛、お前は」
「最後まで一緒に行くわ。そしたら完全に縁を切りましょう」
 キッパリ言い放った襟梛に、父が少し笑う。
「くく……お前は結婚当時から変わんないな」
 鼻を啜る。
 今にもまた涙が流れそうだ。
「あなたが変わりすぎたの」
「お前の車でか?」
「そうよ。早く立って」
 二人が立ち上がり、アカに向き合った。
「哲」
 襟梛が息を吸う。
「お願いだから、助けが欲しい時は云ってちょうだい」
「母さん」
 アカが俺達を指差す。
「大丈夫……だから」
「あとで、今の家に呼ぶから」
 金原がフッと息を漏らす。
 襟梛が云いたかったこと。
 それが、これだから。
「哲」
 父が目を合わせる。
 アカは涙でぐしゃぐしゃの顔を無造作に拭いた。
 暫く沈黙が流れる。
 支柱を失い傾いたベッド。
 無くなったドア。
 捨てられた制服。
 割れた窓。
 壁に刺さった包丁。
 部屋には惨状が広がる。
 二日間の跡が。
 感情の痕跡が。
 家族がぶつかった証が。
 それを見回してから、こう言った。

















「愛している」



 アカは俯かずに答えた。
「知ってる」


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