どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
アカと両親は、襟梛の車でそのまま警察署に向かった。
多分、あの様子なら無事に着けるだろう。
白い家を出て、半時間。
俺達は高速を走っていた。
「病院行く?」
「いえ……多分、大丈夫です」
「麻痺はもうないのか」
「うん、金原」
行きとは違い、俺が助手席。
金原は後部座席から、前に乗り出している。
「危ないから座ってくれる? あと、シートベルトしないと捕まるから」
「シートベルトはしてる」
類沢は無言でアクセルを踏んだ。
「おわっ」
グンと座席に押さえつけられるスピード。
金原は勢い良く背中をぶつけた。
「……そこまでやるか」
「行儀悪い生徒は嫌いでね」
「なんだそれ。ん?」
金原は座席に置いてある紙を持ち上げた。
振り返って見ると、さっき類沢が見せていた資料だ。
「講演会?」
だが、それはどう見ても類沢の言葉とは違いすぎる内容だった。
カルテでもない。
病院からの診断書でもない。
ましてや市役所に関する資料であるはずがない。
「ぱっと見は気づかないだろ」
「先生、コレは」
「来週の外部指導講演会のパンフレットの下書きだよ。丁度いいと思ってね」
よくコレを堂々と突きつけられたものだ。
もし、アカの父親が出て来てこの紙を見たなら、全く違う結果になっていたことだろう。
「すごいですね」
「人を騙すのは慣れてるから」
金原が眉を潜める。
俺はその意味がわからなかった。
「今日は、ありがとうございました!」
俺の家に着き、金原と言った。
「まだ終わってないけど」
「それはもう他人が出る幕じゃないよ」
金原を制して、類沢は煙草をくわえた。
カチッと火を点ける。
あぁ。
この間とは、随分違う。
「紅乃木哲は……思っていたより強い子だったね」
「アカはな」
「身体的にじゃないよ」
「…そうですね」
アカ。
アカの父、母。
あの三人にしかわからない家族。
俺達にとっては、アカの父が絶対悪だったけど、そうじゃない。
その理由は知り得ない。
アカが話すのを待つだけだ。
話さなくったっていい。
これからは、類沢の言うようにアカが決めることだ。
俺の役目は終わったんだ。
終わった。
ぺたりと腰が抜ける。
「瑞希?」
涙腺が緩む。
「良かったぁ……」
安心して泣いた。