どこまでも玩具
第11章 立たされた境地
朝から騒がしい。
類沢は頭を押さえながら、招かれざる客と顔を合わす。
「類沢雅様、ですか」
「……そうですが」
玄関に立つ三人の男性。
撫でつけた髪がいかにも公務員だと物語っている。
まるで三つ子だ。
同じ服装に同じ姿勢、仕草。
出勤しようとしていた矢先に押し掛けたことに対して簡単に謝辞を述べると、一人が前に出た。
素早く書類を確認し、後ろの男が紙を手渡す。
「裁判の呼出状になります」
今日は休みだ。
この時点でそう悟った。
渡された紙を一瞥し、訴状の副本を受け取る。
開いてすぐに、原告の名前を見つける。
西雅樹。
本気だったんだ。
つい感心してしまう。
「御知り合いで間違いありませんか?」
「間違ってたら?」
「何も変わりませんが」
男は無表情に答えた。
社交辞令程度の確認なんだろう。
ここから先は、裁判に出るか否かの決定権しか渡されない。
「もし原告と争議するつもりになりましたら……こちらの答弁書に必要事項を記入して、弁護士を雇って下さい」
「へぇ」
類沢は答弁書に目も向けず、副本を読んでいた。
請求は教員免許の没収と懲役刑。
五年は無理だろう。
請求原因を見る限り割に合わない。
証拠。
何を提出してくるつもりだろうか。
立証出来るのか。
口元が笑ってしまう。
「期日の厳守をお願いします」
三人が帰った後、玄関に鍵を掛けてソファに座る。
パラパラと副本を捲る。
大した内容も無いので、すぐに読み終わってしまった。
それから学園に電話を掛け、暫く休むことを伝えた。
理由をかいつまんで説明すると、校長に繋がれた。
「裁判とな」
「ええ、ご迷惑おかけします」
「迷惑かける事態になるのか」
「まさか」
「ふん。犯罪者で無いなら堂々と戻って来なさい」
「ありがとうございます」
電話を切って、煙草を吸う。
職員室ではどう噂されることか。
それから携帯を見る。
メール一件。
見覚えあるアドレス。
変更しても必ず入れる「crase」の文字。
―通知は行った? 逃げないでよ、雅先生?―
確か瑠衣のミリオンヒットを記録したアルバムの名前だ。
本当にファンだった。
今でも、か。
携帯を閉じる。
さて、どうする。
類沢は煙草を灰皿に置き、副本をもう一度手にとった。