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どこまでも玩具

第2章 荒らされた日常

 ガチャリ。
 鍵の隠し場は代々受け継がれてるようで、すぐに扉は開いた。
 北校舎の外れにあるため、体育の授業からも見つからない。
 薄暗い密室に入って、無意識に体が強張る。
 こいつらは、あの男達と違うのに。
 信頼できる仲間なのに。
「お、冷蔵庫健在~。瑞希、ほらポカリ飲めよ」
 投げられたペットボトルを上手くキャッチする。
 冷たい。
 気持ちいい。
 アカも受け取り、すぐに飲み始める。
「うめーな」
「勝手に飲んでいいのかよ」
「後輩のものは先輩のもの、ってな」
 俺は黙ってペットボトルを握り締める。
 何から言ったら良いんだろう。
 まずは、座らないと。
 俺の中で暴れるものを沈めないと。
「なんか、変な音しねぇ?」
 気づかれる前に。
「みぃずき、携帯鳴ってる?」
 悟られる前に。
 ぐらりと視界が揺れて、俺は片膝をついた。
 その反動で中のものが前立腺を擦り上げる。
「ふッッ……ん」
「瑞希?」
 しゃがみ込んで声を抑える。
 こんなこと知られる訳にはいかない。
 こんなこと現実じゃない。
 ブブブ。
 クチャ。
「瑞希…」
 違う。
 そんな目で見るなよ金原。
 真っ赤なんだろな。
 今、俺の顔。
 ヴヴ。
「わ、るいけどさ……一人にしてくん……ねぇかな」
 ペットボトルを床に倒して、絞り出すように懇願する。
 そしたら、忌まわしいのを取り除けるからさ。
 普通に話せるからさ。
 事実から逃げれるからさ。
「一人にはしないよ」
 アカが緩く頭を撫でた。
 もう限界だった。
「く……ぅぁああ」
 俺はアカに縋って声を上げて泣いた。
 アカは黙って抱き締める。
 金原もそばに座る。
「ひっく……あぅ」
「なぁ、瑞希。俺らは馬鹿やるだけのダチかもしんねえけどさ、悩み位は聞けるぜ? 解決だって三人なら出来るだろ」
 なぁ、とアカに促すと、彼も神妙な表情で頷いた。
 俺は乱暴に涙を拭って二人をしっかりと見つめる。
 今だけ。
 今だけは類沢の捻り入れた道具の刺激を忘れたかった。
 さっきとは違う。
 周りにいるのは親友だけだ。
「みぃずき頑張ったんだな」
 優しい声で言われると、余計に涙が零れた。
「辛かったな……」
 きっと二人は事情を察している。
 それでも、俺を傷つけまいと。
「あぁあああ――! わぁああ」
 だから、安心して泣いたんだ。

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