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どこまでも玩具

第11章 立たされた境地

 コートと鞄を抱えたまま座る。
「西雅樹って知ってる?」
 椅子から落ちそうになった。
 なぜ、雛谷の口からその名前が。
「知ってるんだ」
 あぁ、バレた。
 いや、バレても何もないんだが。
 いや待て。
 本当に何もないのか。
 とにかく落ち着け。
 俺。
 雛谷は脚を組んだ。
「そっか……実は先日その男が学園に来て、雅先生に会わせろの一点張りでさ。たまたま対応していたんだけど、特に気になるような感じじゃなかった」
「はぁ」
「で、今回の類沢先生の欠席。裁判。それを聞いて思い出したのはさ、彼が裁判の話がしたいって言ってたことなんだよねぇ」
 愕然とする。
 西雅樹は、学園に来てまで、申し込んできたのか。
 類沢は知ってるんだろうか。
 だから、家に来た。
 雛谷が髪をクルクル弄る。
「あっ。何か知ってる顔だね」
 いきなり身を乗り出し、顔を近づけてきた。
 椅子の背に押し付けられるように圧倒されてしまう。
「瑞希も関係してるー? その裁判にさ」
「か、関係してても、雛谷先生には関係ないです」
「あるよ」
 そこで大仰に腕を広げてみせる。
「だって類沢先生がいなくなっちゃえば、遠慮なく瑞希を」
 わざと言葉を切り、にっと笑う。
 恐ろしい人だ。
「……そんなことになったら雛谷先生は俺と法廷で闘いますね」
「楽しみだねー」
 時計が五時を告げる。
「類沢先生って瑞希のなんなのかな?」
 核心を突かれた気がした。
「……先生です」
「違うよ、違う。そういう類の答えは期待していない」
 黙るしかない。
 わかんないから。
 俺にとって、なにか。
 逆に教えて欲しい。
「西雅樹って男の子も……瑞希みたいな生徒だったのかね」
 俺は目を見開いて立ち上がった。
「失礼します」
 なんだ。
 きっと、聞きたくなかったんだ。
 それだけは。
「やっぱりねぇ」
 雛谷は扉を見つめて笑った。

 携帯。
 鞄のチャック。
 電話。
 電話帳。
 指が上手く動かない。
 校門を出て、すぐに電話を掛けようとする。
 しかし、手が止まった。
 何を訊きたいんだ。
 雛谷の言葉が蘇る。
 西雅樹と俺は、同じ?
 同じなんですか。
 訊きたい。
 でも、訊きたくない。
「くそっ……雛谷め」
 わざわざ言われたくないことを。
 タイミングが悪いんだ。
 本当に。

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