どこまでも玩具
第5章 明かされた記憶
「くっ……はは……あはははは」
部屋には類沢の笑いだけが響いた。
「あっはははは。面白いなぁ……あぁそう」
愉しげに肩を揺らす彼が、何故か怖くて口が開けない。
紅乃木は予備のナイフを取り出し、左手で回す。
「有紗、お前今までの聞いててよくそんな」
「うるさいっ。圭吾にはわかんないんだよ、好きになるってのが」
スキニナル。
それは、この状況に余りに似合わない言葉ゆえ変換されない。
誰を?
誰が?
「あたしと付き合って、それで他の人に手を出すのをやめて! それでいいんでしょ」
そういう作戦ね。
でも、それで解決するのなら瑞希があれほど悩むか。
「キミは彼氏を犯した男とセックスしたい訳?」
有紗が口をつぐむ。
金原は青筋を浮き上がらせて、類沢に掴みかかった。
襟を乱すその手を逆に捻り上げ、彼は笑みを消す。
「随分な彼女だね、圭吾?」
「名前で呼ぶんじゃねぇよ」
バシン。
金原は打たれた頬を押さえながら横によろけた。
「口の悪い生徒たちだ……」
有紗が駆け寄るが、その手は振り払われる。
「もう、知らねぇよ」
「圭……」
立ち上がった金原が有紗を押しやる。
「有紗はこんな奴でも欲しいんだろ。オレはもう我慢なんねえっつの」
それはそうだ。
紅乃木はナイフを腿に当てて見下ろした。
光る切っ先は有紗に向いている。
目障りだな。
あの女。
扉が開き、金原が消えた。
「圭吾!」
「自業自得じゃん……」
「なんですって」
有紗がツカツカと歩み寄る。
紅乃木は躊躇なくナイフを突き出した。
ピタリと止まるが、今にも飛びつかんばかりの勢いだ。
「……どうせ逆恨みなんでしょ? 自分が苛つくから類沢センセ避けてるだけじゃん」
「なら、犯されてみれば?……あぁ、お前の場合は嬉しくて盛っちゃうか」
「うるさい!」
殴りかかったきた彼女をかわし、紅乃木はその頭を平手打ちする。
バン。
ストレートの髪が舞う。
有紗は呆然と座り込んだ。
「馬鹿が犠牲になるのはどうでもいいんだけどさ」
「女性に手をあげるのはどうかと思うけど」
「男ならメチャクチャにしていいのかよ?」
類沢が口に軽く手を当てて黙る。
「……あんたは関係ないじゃない」
「は?」
有紗がよろよろと立ち上がる。
「関係ないじゃない!」