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どこまでも玩具

第6章 剥がされた家庭


 夕方になる。
 夜が明ける。
 また、夜になる。
 昨日の朝から何も食べてない。
 なにもしてないな。
 ぼうっと寝転がって、携帯をたまにいじって。
 ただ、考えないで。
 色々、忘れようとして。
 意味なくアルバム取り出したり。
 よくわからない。
 美里から連絡はない。
 薄情だな。
 俺はどうでもいいのか。
 いや、多分違う。
 お互い余裕がないんだ。
 頭痛いし。
 金原とアカからメールは来ていた。
 だが、見る気がしない。
 返事打てないし。
 着信履歴も何件か。
 受験生の十一月半ばだ。
 色々心配されるだろうな。
 今は考えない。
 考えなくていいや。
 顔を枕に埋める。
 静か。
 家の中がいやに静かだ。
 誰もいない。
 誰も。
 気づけば泣いていた。
 声を上げて。
 母さん。
 父さん。
 たすけて。
 帰ってきて。
 美里。
 いなくなるなよ。
 誰か
 来て。

 ピンポーン。
「え……」
 鼻を啜って耳を澄ます。
 ピンポーン。
 やっぱり鳴ってる。
 誰だ。
 わざわざプリントでも届けに来たのか。
「はい」
 ドアを開ける。
 なんでインターホンで確認しなかったんだよ、俺。
「どうも」
 類沢がスーパーの袋を差し出す。
「ちゃんと食べてる?」
「……あんたの顔、今一番見たくない」
 だが、彼にその言葉は届かず、ぐいとドアを開かれる。
 類沢は家を見て眉をひそめた。
「空気、入れ替えて。それから掃除機。食器も洗ってないよね。こんなんじゃ病気になるよ」
 玄関に入ってきた類沢の両肩を掴む。
 でも、力が入らない。
「瑞希?」
「今更……教師面すんなっ」
 息を吸う。
「全部あんたが来るまで幸せに進んでたのに! 金原だって、アカだって。俺の家族もこうならなかったのに!」
 吐き出した後、抱き締められた。
 優しく。
 父さんかと錯覚するくらい。
「云いたいこと、みんな吐き出して」
 その声は、今まで聞いたことのない響きを帯びていた。
 だから、俺は震えながらしがみついたんだ。
「なんでだよ……なんで俺なんだよ、先生。こんなん……現実じゃない……一人になるなんて思わなかった」
 類沢のコートから、保健室の匂いがしたが、気にならなかった。
「今日だけ、手伝いさせてくれないかな」
 涙を擦ると、類沢の笑顔が見えた。

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