どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
―最近顔色悪いわね。ちゃんと寝てる? 携帯ばっかいじってちゃ駄目よ。受験生なんだから―
―瑞希が大学生になったら、海外いこっか―
そうだね。
母さん。
部屋に座り込んで、天井を仰ぐ。
葬儀は済ませた。
これからのことは伯母さんがどうにかしてくれてるらしい。
遺産相続も進めてる。
俺たちに政府援助がつくとかも。
正直
どうでもいい。
俺たちは孤児だ。
それだけが事実だ。
涙が出ない。
まだ、信じてない。
コンコン。
「お兄ちゃん、起きてる?」
「美里?」
美里が顔を覗かせる。
「どうした」
美里は迷うように目を泳がせて、それから薄く微笑んだ。
「ううん。おやすみ」
明日は月曜日。
行く気がしない。
朝になると、美里がいなかった。
朝食を準備して声をかけたら、もういなくなっていたのだ。
学校か。
いや、違う。
制服は残っている。
携帯は持って行ったのが幸いだ。
昼までは独りにさせてやろう。
お互いそれが楽だ。
学校に欠席の連絡を入れる。
美里の分も。
「今週末の模試、無理しなくていいからな」
電話を取った学年主任が優しく言った。
「はい……じゃ、失礼します」
模試か。
遠い話だ。
十二時になる。
俺は電話をかけた。
ルルルルルル――
ガチャ。
「……お兄ちゃん?」
「美里、今どこにいる」
「……」
「美里?」
「むりだよ」
「え」
俺は携帯を強く握り締める。
「私には、お兄ちゃんと二人で生きるなんてむりだよ! パパとママがいなきゃ出来ないよ!」
泣いてる。
「美里、落ち着け。伯母さんたちのところに引っ越したっていいんだ」
「今はお祖母ちゃんのところにいる。私、こっちで暮らす」
なにいってるんだ。
「勝手に決めるなよっ」
「一晩考えたもん!」
一晩。
そっか。
俺も同じ時間考えたんだよな。
「……わかった。また、連絡しろ。荷物とか残ってるし」
「……うん」
携帯をソファに軽く投げて、そばのチェアに深く腰掛けた。
額を押さえる。
なんだ。
このめまぐるしい現実は。
まだ昼なのに、眠い。
頭が痛い。
日常が、変わった。
両親がいなくなった。
妹は離れてしまった。
俺が親の代わりになれないせいで。
昨晩、何かするべきだった。