どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
類沢は、車を停めて一息吐く。
ここだ。
あの男が呼び出したのは。
鏡を見て、自分の顔の険しさに苦笑いする。
正直、教師間での関わりは増やしたくない。
篠田春哉だけで十分だ。
あれも、瑞希の担任だから勘づかれて面倒になるのを避けるためだけ。
それも長くは続かない。
続かせない。
時計が七時を指したので、ゆっくりと降りる。
駐車場の脇。
小さな公園がある。
そこは高台に面しており、街が見下ろせる公園。
時刻も遅いので、子どもの姿はない。
知っててここを選んだろうか。
類沢は景色を眺め、煙草を取り出す。
煙草はあまり好きじゃないが、こういう場所で吸うのは良い。
そして、新鮮な空気を穢している背徳感も心地いい。
白い息を吐く。
そろそろクリスマスシーズンもあって、街はネオンで装飾されている。
クリスマス、か。
何が嬉しくて、自分を救ってくれない男を祝うのか。
子どもの頃から嫌いな行事だ。
教師になって一番の失点は、この季節に絶対関わらなければならないからだ。
高校生にもなってクリスマスに関わる生徒がいるとは計算外だった。
初等教育も中等教育もそれで避けたというのに。
だが、今年は違う。
瑞希を誘ってどこかに行こうか。
あの親友達さえ欺けば、どこにでも連れて行ける。
受験時期だろうと関係ない。
「こんばーんわ」
類沢は振り返り、声の主に軽く会釈をする。
「どうも。雛谷先生」
雛谷は白いコートのポケットに手を突っ込んで、そばに並ぶ。
「来てくれないかと思ってましたよ」
「……今夜は仕事も少なかったので」
呼び出された理由は聞いていない。
そもそも、この教師とは今まで接点がない。
化学の教師だったか。
担当は一年生。
ダメだ。
理由が見当たらない。
「類沢先生は、まだ就任して数週間なのに随分人気者ですねぇ」
人気者。
その言葉の裏がまだ掴めない。
「女子生徒の間では、クリスマスプレゼントの話がもう上がってますよー?」
「あの……」
こんな話をしに来たのか。
雛谷の愉快げな横顔は、何を云いたいのだろう。
「でも……類沢先生には興味ない話題でしたね」
そして彼は近づく。
髪を弄りながらこう言った。
「大事な男子生徒がいますもんね?」