どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
有紗は予想通り保健室に行ったらしい。
というより、保健室に行く以外に反省室に入れられる理由が見つからない。
「ねえっヒナヤン! 早く出してよ、もういいでしょ!」
「もういいでしょも何も、キミが入ってまだ三十分と経ってないよ仁野さん」
雛谷は、さも可笑しそうに口に手を当てて笑う。
「類沢に会って何があったんだよ」
「類沢先生でしょ?」
冷たく訂正され、金原は声を落とす。
「出してよ」
「話せよ」
元カップルが睨み合ってるのを傍観しながら、紅乃木は反省室の壁を手でなぞる。
「出してくれるのが先っ」
金原は怪訝そうに首を回すと、雛谷に向かい合った。
「で? 雛谷に解放してもらった?」
「違うんだよ、瑞希。あの先生の怖さ知らないだろ?」
俺は一年の時の授業を思い返す。
白衣に童顔の雛谷。
カールしたボサボサな髪。
なんだろう。
あまり関わりたくなかった気がする。
なんでだっけ。
「あれ。あの、前に問題起こした先生って雛谷だっけ?」
金原とアカは同時に目をそらした。
そうだ。
思い出した。
雛谷は、ヒナヤンなんて名前とはかけ離れた性格の持ち主だったんだ。
「ダメだよー。ここを管理してるのは誰だっけ?」
たった今下げた頭に突き刺す拒絶。
金原は鍵の束を一瞥し、再度頼み込む。
紅乃木は隣で雛谷の姿を見ていた。
金原の言葉を聞きながら恍惚な笑みを浮かべている教師を。
「ふふ……ふふふ。かわいいなぁ」
奇怪な笑い声が響く。
有紗は怯えて部屋の奥に引っ込んだ。
「ダメだって、言ってるよね?」
雛谷の目の色が変わった。
「ストップ。それ以上聞きたくない」
俺は嫌な予感がしつつ、麦茶を注ぐ。
思い出したのだ。
雛谷が起こした事件を。
「まぁ、逃げるよね。雛谷の覚醒状態には付き合っちゃいけないからね」
アカが遠い目時計を見つめる。
「誰だったっけ? 運悪かった奴」
「二組の三島。化学部が遅くなって、二人きりになったんじゃなかった?」
三人は揃って溜め息を吐く。
いたな。
類沢が来る前にも、危ない教師はいたんだな。
それを言えば、類沢に付き合ってる篠田もか。
俺は頭を支える。
「あの変人……よくあれで飛ばされないよな」
「だって理事長の甥だろ」
「みぃずきは見なくて良かったよ」