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どこまでも玩具

第7章 阻まれた関係

 保健室に走る。
 云いたいことがある。
 もうやめろとか。
 なんなんだとか。
 いい加減にしろとか。
 ありがとうとか。
 あぁ、これは云わなくていいや。
 考えながら走っていたせいか、階段で教師にぶつかった。
 お互いによろける。
 急いで謝ると、彼の落としたプリントを拾って渡す。
「走ると危ないよ~」
 また目眩がする。
 雛谷。
 昨日の今日で会うなんて。
 なぜか血の気が引いて、俺は走り去った。
 その背後で雛谷が「やっぱ瑞希が一番かわいぃ……」なんて呟いていたなど知らずに。

「類沢っ」
 保健室に入ると、数人の女子に囲まれている白衣を見つけた。
 きゃあきゃあ騒いでいた女子がびっくりして黙る。
「やぁ、瑞希。どうかした?」
 どうかしたって。
 どうかしたっ……て。
 馬鹿なのか。
 確信犯なのか。
「ちょっと……呼び捨て?」
「なにあれ? 宮内?」
「類沢センセにしつれーい」
 忘れていた。
 この男の周りにいるのは女子だということを忘れていた。
 俺は扉に手をかけたまま固まる。
「えと、類沢先生お時間よろしいです、か?」
 口が痛い。
 喋りにくい。
 類沢は一瞬目を見開いて、ニヤリと笑った。
 見逃すものか。
 俺は目を細めて睨みつける。
「じゃあ、後でねみんな」
 意外にも類沢は立ち上がった。
「ええ!」
「なんでですかぁ」
「私たちの方が先ですよ!」
「類沢センセ、やだよ」
 その波の中を押して、外に彼女達を出す。
 まだ叫びが聞こえる中、類沢は溜め息を吐いて俺の背中を押してソファに座らせる。
「助かったよ」
「いつもあんなんなんですか」
 俺の方が溜め息つきたい。
 今日はポニーテールじゃなくて、上側だけを結んで垂らしている。
 思い切り女性の髪型だ。
 睫毛も長く見える。
 また頭痛してきた。
「で、何の用? そっちから来るの珍しいね」
 当たり前だ。
「……なんで教えた?」
 カタリと音を立て、類沢が椅子に座る。
 カーテンが背後で揺れる。
 寒い風が吹いても開けているのがまた、保健教師らしくて苛ただしい。
「メルアド、俺が知ってることですよ。有紗に……仁野に教えましたよね」

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