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あの店に彼がいるそうです

第9章 俺は戦力外ですか

 類沢は片眉を上げた。
「街自体が厄介事になりそうなのに、これ以上のことがある?」
「ああ。少なくとも俺はそう思ってる。シエラの危機も街の危機に等しいからな」
 蓮花がヒュウっと口笛を吹いた。
 それを見て素っ気なく答える。
「瑞希の件?」
「お前はあいつをどうしたいんだ」
 責めるように。
「手に入れるならさっさとやって、店じゃなくて家で飼え」
「結論を急ぎすぎじゃない、春哉」
 蓮花が鞭を机に置いて歩み寄る。
 篠田の首に腕をかけ、妖しく体をくねらせる。
「でも、どうせだからここで言っちゃった方がお互いの為かしら」
「やめろ、蓮花」
「僕のライバル宣言ならいつでもどうぞ?」
 軽く云った言葉に二人が目を見開く。
 それがちょっと面白かった。
「裏で手を回して瑞希の借金返済を遅らせて、このままだと僕の地位が危ないとか警告してさ。わかりやすすぎると思うんだけど。違う?」
「やだ。私は別にライバルなんて思ってないわよ。ただ、瑞希が可愛いから客以上の交流でもしようかしらって」
「黙ってろ」
 二度目の制止にやっと挑発を止める。
 口を曲げて。
 どちらが年上か。
 類沢はくっと口の端を持ち上げた。
「とにかくだ。今回の堺の連中とのいざこざの間は、店に集中して貰いたいんだ」
「そんなに営業に支障をきたしてる?」
「売上はむしろ伸びてるがな。アフターに一切行ってないだろ」
「まあね」
「そのうち太客何人か失うぞ」
「それはどうだろ」
 どちらも一歩も譲らない。
 オーナーとホストの一騎打ち。
 同等の意見のぶつけ合い。
 蓮花は小指を甘噛みして眺めていた。
 篠田が頭を掻いて眉をしかめた。
「もう一ヶ月だ。あいつも一人のホストとして働き始める。面白がっている期間は終わったから俺も口を出させてもらう」
「今まで我慢してたようには見えないけど」
「よく言う」
「オペラにまで連れていってさ」
「あれは気まぐれだ」
「へえ?」
「あのさ、おふたりさん」
 蓮花が指で玄関を示し遠慮がちに口を挟む。
「雅の車のエンジン音がしてるんだけど」
 その方向を振り返る。
 蓮花は従兄弟である篠田の影響もあり、車に精通している。
 歌舞伎町のホストの車は暗記しており、そのエンジン音も大抵聞き分けられるのだ。
 確かに微かに聞こえる。
 瑞希が?
 まさか。
 じゃあ、誰が。

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