あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
「愛が?」
類沢はリビングで今聞いた話を信じられないように首を振る。
それを眺める篠田と蓮花。
「どこと繋がってるって?」
「お前が嫌いな奴らだよ」
「多すぎるんだけど」
「ひとつしかないだろうが」
ピチピチと鞭を壁に打ち付ける音が響く。
一瞥したそれには紅い雫が散っていた。
おそらく、愛の。
「いつから疑ってたの」
「あいつのことか? 実はあるツテから情報が入ったんだよ。愛が店外で秋倉の部下に会ってたってな」
「まさかと思うけど……滝宮?」
「よくわかったわね」
黙って聞いていた蓮花が口を挟む。
今しがたまで乱れていたような濡れた瞳で。
その性癖を知っている類沢は黙って彼女を見つめる。
「いくらなんでも早急すぎない? あそこの情報ってたまにミスもあるんだし」
「珍しく肩を持つのね。愛がお好き?」
「一番ライバルだからね」
「すました顔でよく言うわ」
無表情に戻った篠田が静かに場を制する。
蓮花も口をつぐんだ。
三人は立ったまま向かい合い、考えを整理するかのようにそれぞれ宙に目を漂わせる。
「……どこまで目星をつけてるの、二人は」
「最低でも二週間後までに向こうから連絡が入ってくるだろうが、それまでに空牙あたりが接触するだろうな。あいつと吟は大阪にも店を持ってるから、今回のことも資料をよこしてくれた」
「へえ。吟達がね」
意外というほどでもない。
この街外に支店を持っているのはシャドウだけじゃない。
篠田がオペラを構えているように、スフィンクスの松園親子も青山に店がある。
雛谷と紫苑くらいだろう。
歌舞伎町のみを仕事圏内にしているのは。
「裏はどっちなの。蜂?」
「ああ、やめて。その名前出さないで。吐き気がするから」
蓮花が顔をしかめてキッチンの奥に消える。
すぐにコーヒーサーバーの音がした。
それを聞いた篠田が舌打ちをして話を元に戻す。
「その時の交渉はお前には参加させないつもりだ。予定では吟と我円と行こうと思っててな。俺の本題はそっちじゃないんだ」