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あの店に彼がいるそうです

第12章 どんな手でも使いますよ


「用は済んだか?」
 通話を切って携帯を床に落とす篠田に、未だ噛みつくように小木が言う。
「まあ、用件は済んだが……昔うちのホストを散々弄んだ礼をついでにしていっても構わないよな」
 目を細めた篠田にぞくりとする。
 鋭い痛みが首に走り、血が伝う感覚が襲う。
 こいつ……
 同じ臭いがする。
 自分と。
 他人を傷つけるのに何の躊躇いもない。
 なぜ経営者などやっている。
 裏の世界の方が数百倍似合っているだろうに。
「一つ訊く。三年前にここに流れてきた運び屋に戒という名前の男はいたか?」
「戒? 知らねえな。運んでるもんにも種類別に業界が分かれてんだ。こっちはタッチしてねえ」
「そうか」
 すっと短刀が離れる。
「今は時間がないからてめえの始末は今度にする。店終うなよ」
「ハッ。ちゃんとリードつけとけよ。犬一匹繋ぎとめも出来ねえのか」
 立ち止まらずに出て行く背中に声を上げる。
 だが、篠田は静かな声で一言だけ残して去って行った。
「二匹も逃がした奴に言われたくねえな」
 二十二号と二十三号。
 それを指しているのだとすぐに気づき、小木はギチリと歯をかみ締めた。

「運転しろ」
 そう言われて運転席に乗せられた愛が戸惑いながら発進させる。
 推定四千万の車を任されるプレッシャーに嫌な汗が流れる。
「どちらに向かうんです?」
「それを今から聞く。とりあえず新宿に走らせておけ」
 そういって直ぐにどこかに電話を繋いだ。
 ホームでのボタン登録している番号。
 よほど大事な相手だろうか。
「ご無沙汰しております、シエラの篠田です。ええ、どうも。急ぎの件で調べてほしいんですが。ああ、はい。その件ではお世話になりました。あれ以後問題もありませんよ。はい、今回は堺から三年前にこちらに流れてきているはずの運び屋について伺いたくてですね……戒という、ええ、巧という青年も関わっているようで。鵜亥です。はい」
 これほど畏まった口調を聞くのは初めてだ。
 余計に相手が気になってしまう。
 ちらちらと窺う愛に篠田は目線で運転に集中しろと伝える。
 仕方なく前を向く。
「ええ、間違いないですが……え? 確かですか?」
 急に声のトーンが上がる。
「わかりました。ええ、どうも。いや、三十にしてください……三十五ですね、振り込みは後日。では」
 ピッ。
 そわそわする愛に笑い声が降り注ぐ。

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